2009-03-15

ホスピタリティ  NO 2365


  自分の身体の一部なのに自分の意思では動かないとは恐ろしいこと、入院してから2日目だったが、医師が病室に来られ「左手を鼻の上に」と仰ったのだが、う まく運んだ左手に続いて右手を持っていったら左耳の辺りまで飛んで行ってしまい、「もう一度」と言われて再挑戦したら今度は額を叩くように落下、つまり軟 着陸不可能という状態に陥っていたことが判明したのである。

 今、そんな右手にスプーンを持って食事をしている私。一昨日の作業リハビリでは「お箸」のテストがあったが、小さな積み木状のものや柔らかいスポンジ状のものをうまく掴むことが出来、それを確実に口に運べたのでびっくり。療法師の先生が「奇跡!」と驚かれていた。

 人が1年を要するなら私は半年で、なんて反骨精神で何事にも挑戦意欲を燃やしてきた私だが、リハビリには何より精神力が重要、「こんな辛いこと」と逃げた瞬間に敗戦となる構図があり、それだけはないようにと前進する日々である。

「お はようございます。お部屋をお掃除したいと思います」と言って若い見習いさんらしい女性が入って掃除を始めた。決められているなら「思います」という言葉 はおかしいではないかと考える私、クイズ番組や歌番組の下手な司会者が「次に行きたいと思います」と発し、こんな基本的なことが分からないのかと嘆かわし く思う日々、それらはこんな病院の中でもいっぱいあったのである。

3年前の入院の際にも書いたが「採血の方、よろしいでしょうか?」と言うのもおかしな日本語。「方」は不要だし決まっていることなのだから「採血です。チクッとしますね」でよいではないか。

 その採血だが、針を刺した状態で「力を抜いてください」と言われても力を抜けないのは当たり前、そんな時「もう、終わりますから」と言われたら自然に力が抜けるという患者の心理を知るべきだろう。

  昨日、一人の看護師さんがやって来て「私、久世さんの夢を見たのです。現実か夢か分からなくなって混乱したのを覚えています」と真面目そうな表情で教えて くれた。彼女のイマジネーションの中に私の存在があって夢に登場したとは興味深い話だが、実は、その伏線となる出来事が半月ほど前にあったのである。

  妻が病室に来ていた時に血圧測定にやってきた彼女、「この看護師さんが一番やさしいよ」と妻に紹介したのだが、「そんなことないですよ。みんなやさしいで すから」とはにかんでいたのが印象に残っており、そのやりとりが彼女の心の何処かにインプットされていたと考えられる。

 彼女が「やさし い」と言ったのはそれなりに裏付けと理由があったからで、順に患者をチェックしながら回る際、トイレ問題に関して小さな声で確認するのは彼女だけ。大半の 看護師さん達は大きな声で言葉を掛け「トイレ、大丈夫?確認するね」なんて、そこから実況放送みたいに伝えるのだから間違いなくお年寄り達に抵抗感を抱か れている筈だ。

 ナースコールにも問題がある。「どうしましたか?」と返してくるのは避けるべき。静かにやって来て「どうしましたか?」と声を掛けるがベターだろう。

 看護師さん達の職務は想像以上に大変だ。それこそ激務と言っても過言ではないが、人それぞれに個性があり、ミスをし易いタイプの人は同じ問題を繰り返してしまうし、仕種や行動の粗い人はワゴンの転がし方まで異なっている。

 どんな職務であっても「仕事」をするべきであり「作業」では大問題との自覚が重要。話題を変えてドクターのことに触れるが、他の患者さんが困ったタイプの医師の発言に立腹されていたので紹介を。

  深夜に腹部の激痛で苦しんでいたその人物、「これだったら家にいるのと同じだ。ここは病院だろう。何とかしてくれよ」と叫んでいる。夜勤の看護師さん達も 何とかしてあげたい思いで医師のアドバイスによる薬を服用させたりしているが、どうしても医師の登場が不可欠な状況だった。

 やがてやって来た医師、その発言には私も驚愕。最悪の言葉遣いしか出来ないレベルだった。「処方した薬で楽になったでしょう。最善の処置をしたから落ち着いたでしょう」とはどういうことだ。目の前で本人が猛烈に苦しんでいるではないか。

  この「言い切り型」は言葉の暴力である。言われた患者側に返す言葉がない一方通行型の先生タイプの発言で、それらは整体士の中にも多く聞くことが出来るも の。「もう、楽になったでしょう。痛みが消えた筈です」と他の患者がいる場所で言われたらどうするだろうか、「痛みは全く治まっていません」なんて返せる だろうか。

 先生とは、相手の自由な発言を引き出す立場で行動したいもの。上述の医師の将来性はダメというのが私の結論。彼は、医師に向かないキャスティング・ミスとも言えるだろうが、それを克服されるには、正しい日本語と言葉遣いを学ばれるべきとアドバイス申し上げる。

 今日の結びは上述の先生の問題にもつながるホスピタリティについて。ホテルの語源はラテン語のホスピターレで、その意味については何度も書いたが、今日、友人が一冊の本を届けてくれた。

 タイトルは「ホスピタリティが生まれる瞬間」で、「いやだ、退院なんかしたくない」そう思えた初めての病院と帯にあり、ホテル・リッツ・カールトンにおられた当時に何度かお会いした林田正光氏が著者であった。

 地方の病院に真のホスピタリティを導入させるプロデュースに取り組まれた話題、如何にも林田氏らしい観点で興味深い内容であり、過日の東京ディズニーランドの感動の裏側を描いた書物に続き、弊社の社員全員に「必読」と命じるつもりである。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
携帯で下のQRコードをスキャンするか
 または
携帯に下のURLを直接入力します。
URL http://m.hitorigoto.net