2003-12-03

伯父さんの説教    NO 624

コツコツと20数年、ご夫婦で続けてきたお店。時代の流れに閉店を余儀なくされつつある頃、奥さんが急逝された。

 ご夫婦には一人息子がいるが、その息子さん、郊外の新興住宅地に居を構え、仕事に追われているとのことで、この数ヶ月は顔を見せることもなかった。

 一流の私大を卒業し、一流企業に就職。この春の人事異動で部長に抜擢され、社内で超エリートコースを進む人物として注目されていた。

 数回の転勤と単身赴任の賜物と謙遜されていたが、通夜が終わった後、伯父さんから説教されることになった。

 喪主は、ご主人がつとめられたが、温厚な人柄を物語るように、近所の方々の多くが手伝いに来られ、受付や食事接待の賄を担当されていた。

 息子さんの会社からも多くの手伝いがあった。上司である役員や取引先の弔問もあり、部下たちが神経を遣いながらテキパキと受付をこなしている。

 さて、伯父さんの説教だが、それは、式場の喫煙コーナーで小耳に挟んだ部下たちの会話が発端だった。

 「ここに座りなさい。話しておきたいことがある」

 手伝っていた人たちが控え室に入り、供養の「御斎」が始まった。式場の中には数える人しかいない状況。その片隅で諭すような説教が始められた。

 「出世街道を歩んでいるようだが、社員の評判が芳しくないようだ。『部長になってから人が変わったよな』という言葉が気になった」

 「それは、妬みじゃないですか?」

 「わしは、そうは思わん。あれは、本音じゃった。それを聞いてから受付の様子を何度も見たり、葬儀社の人にいくつか質問をしてみたが、やはり、お前の傲慢さを感じることなって腹立たしい限りじゃ」

 受付に関することだが、喪主であるお父さんの関係と、息子さんの会社関係との優先順位が逆だということで、それらは、供花の順位にも明らかであった。

  「お父さんの関係や、お母さんの趣味の会がくださった供花より、お前の会社が上位に並んでいるとはどういうことだ? いくら大会社の社長からでも、故人と 伴侶に関するものを優先するのがマナーではないか? そんな基本を理解していないで出世をするから『人が変わった』なんて言われるのじゃ。葬儀社の人も 『順位がおかしい』と言っておったぞ」

 こんな会話が交わされている間、祭壇の前に座っていたお父さんが、何度も線香とローソクを取り替えておられた。

 その姿を見られた息子さん、「伯父さん、私が間違っていました。大切なことを忘れていたことに気付きました。有り難うございました」と感謝され、すぐに弊社のスタッフに供花の順位を変更するように指示された。

 この話は、葬儀が終わった後、息子さん本人から拝聴したこと。会社関係の葬儀に参列しても気付かなかったことで、「勉強になった」とおっしゃった息子さん。きっと、お父さんのお人柄を継がれていると確信しているし、これからのお父さん孝行を願っている。 
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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