2002-08-01
遺言の重責 NO 152
葬儀の日程を決定される時、宗教者、火葬場、霊柩車、会場などのスケジュール調整が必要であるが、ご遺族と葬儀社だけで進めてしまうケースが増え、宗教者の皆様の抵抗感が高まっている。
お寺様は、法要や他の葬儀を受けておられることもあり、宗教者のスケジュール確認なくして日程を決めることは絶対出来ないこと。
ある葬儀の依頼があって参上すると、とんでもないことが起きていた。ご遺族が通夜、葬儀の日程をすでに決められ、ご親戚や関係者にファクシミリで通知をされてしまっていたのである。
これは大変。すぐにお寺様と火葬場のスケジュールを確認したが、幸いにも都合がよくて大事件になることはなくホッとしたが、事の重大さを知られたご遺族が震えておられた姿が印象に残っている。
永い歴史の中に、「葬儀は大阪高級葬儀、司会は久世栄三郎に」という遺言による葬儀も何度かあった。葬祭業に従事することを誇りにしている私にとって何よ り嬉しいことだが、神様、仏様は時に悪戯をされるもので、こんな時に限って自身の担当が数件ということになるから大変だ。
もしも渋滞していたら間に合わないという綱渡りも何度か体験したが、マイクを持つ自身に余裕のない仕事は最高に疲れるものだ。
80過ぎの会長さんの社葬を担当してから3年後、その会社の役員さんからお電話を頂戴し、弊社の事務所でお会いすることになった。
お話は、会長さんのご伴侶がご入院されているそうで、ご終焉を迎えられた際の葬儀の事前相談であった。
ご夫婦にはお子様がおられず親戚も遠縁ばかりという事情があり、数日前に数人の役員さん達が病室に呼ばれたそうで、そこで奥様は、「ご自身の葬儀の要望」を託されたのである。
「私の葬儀は、ダイアナ妃のイメージでね」というのが強いご希望。伺った役員さん達はどのように対応するべきか理解出来ず、「どんな形式ですればよいのですか?」と確認されたそうで、そこで私の名前が登場して来たそうだ。
「主人の葬儀を担当された久世さんに、ダイアナさんのイメージでね。それだけ伝えれば可能なの。お願いね」
弊社での打ち合わせ、それは、すべて私に任せるという結論であったが、「これは遺言となりますので、久世さんに司会を担当いただくということも絶対条件です」と念を押されたことが大きなプレッシャーとなった。
それから約2ヵ月後、ご本人の葬儀が行われ、役員さんや参列者の皆さんから「ダイアナさんみたい」というお言葉を頂戴する成功となったが、この2ヶ月間の私の行動が制約されたことは大変であった。
遺言の遂行、それは大変な重責であるが身体は一つ。私の勝手なスケジュールから、日程を変えていただいたことがあったことも事実である。