2006-07-13

献杯・乾杯  NO 1565


 通り掛かった時に<そうだ!>と思い出したように立ち寄る割烹がある。ちょっと離れていて年に5回も行ってないが、入院もあった今年は5月に1回だけ立ち寄っていた。

 その時、カウンターで男性1人と女性3人という先客グループがおり、クイズの出し合いなどで盛り上がっていたので、少し離れた席に座った私。同年代であるオヤジさんが出してくれた「オクラ」で日本酒をチビチビと飲んでいた。

 10分ほどすると誰かの携帯電話が鳴り、「俺、電話。ちょっとタイム」と男性が外に出た。お陰で店内が一気に静かになり、「さあ、飲もう!」と、女性の1人が生ビールを注文した。

その時「ごめん、俺、ちょっと用事が出来てさあ、先に失礼するわ」と戻って来た男性、財布から1万円札を1枚出して「足らない分は明日に会社で」と飛び出して行った。

「余るじゃん、どうする?」と女性の1人。そこからの短い会話で分かったことは、4人が同じ会社仲間で今日の飲み会は「割り勘」だということ。それが予定外の男性の急用でちょっと状況が変わったということだが、女性達からは、それを歓迎するかの言葉もあった。

割烹といっても気軽に入れて良心的な店、よほどの「大酒飲み」でない限り、いっぱい食べて1人5000円でお釣りがくる筈。だから彼女達の結論はすぐに「みんなで飲んじゃえ」ということに。

 平均年齢30代というところか? 酒の肴になったのは、さっきの男性。それもお決まりの悪口。「酒席で先に帰るな」という謂れもあるが、まさに典型的なそのケース。救いは会社の名前が出ないということだった。

 ゴルフをテーマにオヤジさんと話していた私、そこに1人の女性から「白髪のおじさん、いっぱいどう?」と誘われ、続いて「皆で乾杯しましょう!」に進展し、「驕りで~す」と日本酒一本が私の前に。

「私もご相伴に」とオヤジさん。小ジョッキに自身で生ビールをサーバーから注ぎながら、準備が整ったところで「発声」だが、それは真ん中に座っていた髪の長い女性が担当することに。

「生きるって辛いね。女って弱い生きものよ。なにさ、男なんて・・・ねえ! 白髪のオジサン達に・・かんぱ~い」

 こんな場合に深入りしないのが私の行動パターンだが、拙いことに私の席が奥まった場所。席と背中側の壁の距離からも「ちょっとお先に」と抜けられる環境にないので心配。それらはすぐに現実化しつつあった。

時計を確認すると11時過ぎ。営業時間は12時までだが、いつも11時半頃になるとパフォーマンス的な片付けが始まる。しかし、この日はいつもと異なり、片付けの雰囲気を感じることは全くなかった。

 過去にオヤジさんのお母様の葬儀を担当していた。ご仏縁はお寺様からの紹介ということだったが、彼は次男で分家の立場。由緒あるお寺で行われた葬儀に600名の会葬者が参列され、暑い中で大変な苦労をした思い出がある。

「ねえねえマスター、もう暖簾をしまっちゃいましょうよ。そして表の提灯の電気も消すの。朝までなんて無茶を言わないからさあ、もう1時間だけ。ねっ、お願い」

「さて、どうするか。お嬢さん方は貸切をご所望のようだ。よ~し、美人軍団に乾杯をして12時半まで営業!」

 そう言うとオヤジさんが外に出て暖簾を外し、提灯の電気を落としてきたから大変だ。このタイミングを逃したら少なくとも12時半まで抜けられそうにない。<今だ!>と思って言葉を発しようとした時、オヤジさんから想定外の言葉が。

「社長、大手術で命拾いをされたそうですね。先日の月命日にご住職から伺いました。よかったですね。乾杯しましょうよ」

 これで女性達がどうなるか想像できるだろう。「何の病気?」から始まった質問攻め。そしてオヤジさんから出た「ご住職」の言葉から私の仕事の話題に拡がり、ついにはお母さんのために「献杯」が行われ、気が付けば午前1時を過ぎることになってしまった。

 それにしてもお酒に強い女性達。ご馳走様でした・・・合掌 
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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