2006-07-30

逆鱗!出入り禁止?  NO 1581


 30度を超す本格的な暑い夏、緊張の仕事を終えて帰路に着く。自宅に戻って礼服を脱ぎ、ダブルカフスのボタンを外して腕時計を机の上に置く。その瞬間にどっと疲れを感じるのが私の仕事のパターンである。

 ポケットから出した必携品が並ぶ机の上、目薬、常備薬という高齢を物語るものの他に健康食品補助食品と呼ばれる顆粒状の袋が2種類、ビタミン系に青野菜系でいただきものを重宝しているが、いよいよ年寄りという感じなのかも。

 ある時、我が業界関係者が集まるセミナーで講師を担当した。参加した人数は400名程度だったが、その内の半数は司会経験者であった。

「1時間の葬儀の司会を担当して疲れる人は挙手ください」と冒頭に質問したら、挙手したのは4人だけ。「今、挙手された方がプロの司会者です」とコメントしたら場内がざわめいた。

<一件の葬儀の司会で疲れてどうする>という考えが多かったのだろうが、人の人生の終焉儀式に携わるなら、疲れる仕事をするのがプロである。

 会場空間を式場空間に神変させようと静かな音楽が流す。音量ひとつにしても細心の注意を払って「つまみ」を力強く握って動かす。そしてアナウンスからナレーションに入るとシーンとなり、音楽とナレーターだけの世界となる。

  そんな時、頭に「カチーン」とくる靴音が聞こえてきた。マイクを片手にその方向を確認したら接待スタッフの女性。参列者の誰かに頼まれたのだろうが、お茶 やお水のグラスを載せたお盆を手に涼しそうな表情で歩いている。「コッ、コッ」と聞こえるシューズの音が腹立たしく、多く存在している接待スタッフの中 で、なんでこの女性に担当させたのだと責任者の方を見た。

 彼女も苦々しそうな表情で足元を見ている。我々スタッフ全員が「とんでもない女性!」と思っているのに本人は一向に気付かない。<この式場の中で音楽とナレーション以外に聞こえている音は自分の足音だけ>という意識がないとは信じられないレベル。

  葬儀を終えた後、責任者に叱責。私の仕事の現場に今後一切彼女を入れるなと命じておいたが、こんな「以前の問題だろう」というような常識が分からない若い 人達が増えている。ちょっと神経を遣って歩くだけで足音が随分と小さくなるし、心配りが出来るスタッフなら履物の選択だけではなく歩く工夫という配慮もし ている。

 歩くスタイルや美人に「見せる」ための化粧より、重視するべきは「心のオシャレ」と「心の化粧」だ。それなくして日本の葬祭サービスのホスピタリティは完成しない。礼節を感じる「後ろ姿」に女性の魅力を感じる私。そんな「魅せる」女性と仕事をしたい。

 基本のレベルは人によって異なると言われるが、それに平行して羞恥のレベルも異なるみたいだ。

一 方で、自分が「お邪魔虫」でないかを確認する客観的立場から見つめることも大切だ。シーンとした静寂の中でお盆や湯呑み茶碗を落とす光景も何度か体験した が、誰がやったか見ないでも分かるもの。ミスをする人は決まっている。本人が「そんな性格である」ことを自覚しなければミスが繰り返される。それらは交通 事故でも同じである。

 事故を起こさないこと。起こしてから後悔するのではなく、起こす前に起こさないように考えることが知恵。だから「以前の問題」ということになるのだろう。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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