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2002-08-09

アデランス  パート3   NO 160

ドライヤーが終わり整髪を済ませた頃、「次のコーナーへ参ります」と案内された。

 次の部屋も個室。 照明のコントロールシステムもあり、中央に最新の国際線ファーストクラスのようなシートが置かれてあった。見た瞬間、それはマッサージ器だと思ったが、水 平に近いところまでリクライニング可能な座席は、耳元に大辞典ぐらいの大きさのスピーカーがセットされてある。

「ここで、ごゆっくりとなさってください。リラクゼーションも大切なのです」 

 そんな言葉で、部屋の明るさを私の望む調光に合わせ、しばらくは私だけのひとときとなった。

 耳元のスピーカーから小川のせせらぎの音や小鳥のさえずりが聞こえてくる。少し経つとイージーリスニング的な音楽も流れてきた。 <これで自分の好きな音楽を聴くことが出来たらいいな> そんな思いがするほど音質も悪くなかった。

 眠ることはなかったが、音楽に耳を傾ける瞑想的な空間に浸っていたことは事実で、騒々しい都会のど真ん中で、こんな優雅な時間を過ごす体験は、ホテル空間にしか求められない世界である。

 体験コースに組み込まれた時間がやってきたのだろうか、さっきの彼女が次の案内に迎えに来た。

 そこは、始めに入った部屋。すぐに白衣の男性が来られ、感想を訊かれている時、白衣の女性が手にオシボリらしきものを持って入って来た。

<らしき>と表現したことには意味がある。それが強烈な衝撃の現実となったからである。

「実は・・」男性が言い難そうに言葉を開くと、そのオシボリらしきものを広げた。

 中には毛髪がいっぱい包まれてある。

「実は、これは先ほどのシャンプーで脱毛したものなのです。数えてみますと157本ありました。1回のシャンプーで、この程度が抜け落ちている訳です」

 ただ唖然。ただ衝撃。私は、5日に1回というエステコースの申し込みにサインをしていた。

 帰り際、シャンプー前の薬品、シャンプー、リンス、トニックを求め、他に珍しい二つの物も持ち帰ることになった。

 ひとつは黒檀のような木の材質で出来た柄のあるブラシ。これで頭を叩くと血行がよくなり効果があるそうだが、もうひとつは持ち帰って家族に大笑いされたことから1回も使用していない。

 それは、血圧計測器の大型と言えばご理解いただけるだろうか。腕に巻く部分を頭に巻くシステムになっており、額から後頭部に空気による刺激を与えるものだそうだ。

 あれから10数年。娘も嫁ぎ、私にも孫が誕生したが、ある日、娘から贈られてきた物を開くと、育毛剤が入っており、その頃のことを懐かしく思い出した。

 そんな私の頭髪は、今、日々に侘しくなってきている。きっと、これは服用する薬の副作用だと思うことにしている。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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