2003-06-22

永遠のテーマ   NO 465

事務所に立ち寄ると、宅配されてきた巨大な物が置かれてあった。

 厳重に包装され、「取り扱い注意」の文字が目立っている。

 中身は、社葬で飾られるご遺影。縦180センチ、横131センチという大きなお写真。事務所にいた数人のスタッフに訊いてみると、まだ中の確認をしていないとのこと。すぐに開けて確認することを命じた。

 <ひょっとして別人だったら?> <指定通りのサイズになっているか?> <傷が付いていないだろうか?>

 そんな様々な恐怖心が生まれる。もしも問題があったら間に合わないかも知れないが、万が一でも数日の徹夜作業での対応も可能性があるだろう。だから確認が何より大切。

 そんな説教をしながら恐る恐る開かせたが、問題がなくホッとした。

 プロとして仕事に従事する時、こんな『臆病さ』が重要なのである。心配に心配を重ねて本番を迎える。そこに結果として「案ずるより生むが易し」という格言を体験することになる。

 無頓着や配慮なくしてこの言葉は誕生しない。それがこれまでの経験で得た私の教訓。

 そんな恐怖感は、経験を重ねるごとに増加してきた歴史がある。

 これまで数千人の方のナレーションを創作してきたが、そこで学んだ教訓に「諸刃の剣」というような世界があるので紹介しよう。

 人生表現にあっては、必ず触れて欲しいことと触れられたくないことが存在するもの。それらの恐ろしさを理解すると、どうしてもスタンダードの道を通り、マンネリズムに沈んでしまうもの。

 触れられたくないことは、取材時に「さりげなく」聞き流して察知し、触れられたいことを本番で「さりげなく」伝えて大きく反響する手法にテクニックを要し、この境界線に創作の妙味が隠されている。

 音楽、映像、照明、音響などのプロ達と仕事を共にすると、それぞれが「こだわり」を持っているもの。それらを表面化するタイプと「隠し味」で表してくるタイプに分かれることも面白いところ。

 互いの信頼なくして自身の満足に至る仕事は不可能。その先にお客様のご満足が存在しており、それはいつまでも遠くて遥かな永遠のテーマなのである。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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