2003-06-20

奇妙な電話    NO 463

ある日の夕方、おかしな内容の電話があった。相手は、多くの病院に出入りされる葬祭業者の社員で、病院内から電話をしてきていた。

 この業者さん、病院で死を迎えられたご家族に対し、様々なマニュアルテクニックで葬儀の受注を得ることが有名で、その強引さが悲しみの遺族の顰蹙を買うという事実を業界では誰もが知る存在となっている。

 「**病院で**さんという方が亡くなりました。寝台自動車を手配しますと言っても『自分達で手配する』と貴社の名前を出されるのです」

 彼の「困る」ということは、自社内での自分の立場が苦しくなるということで、「出入りする病院内で死亡された方があるのに、どうして葬儀の受注が取れないのだ」と責められる訳である。

 亡くなられた**さんは、ご本人の固いご遺志で、お世話になった病院に対する御礼の心を託され「病理解剖」の協力をご要望されたとのこと。そのために数時間を経てからご自宅に搬送するというケースであった。

 しばらく、この葬儀社の社員と電話でやりとりをしてみることにした。

 「病院出入りも大変でしょう?。受注出来なかったら上司から叱責されるでしょうし、無理強いすると遺族から病院に対するクレームが発生する危険性もあるだろうし?」

 「そうなんですよ。その駆け引きが微妙なところでしてね。受注しないと我々の給料にならないシステムになっているから大変なのです」

 「でも、御社の寝台自動車の担当者は、全員がベテランばかりで受注率が非常に高いと伺いましたが?」

  「遺族なんて葬儀のことなどズブの素人。いくらでも騙せますよ。でもね、貴社を要望される遺族を落とすことは難しいのです。葬儀のことをよく知っている人 が多いのです。他社だったら『以上のサービスを』で通るのですが、貴社の名前が出て「以上」を言葉にしたら絶対にトラブルの元。それだけは弁えているつも りです」

 弊社のことを気持ち悪いほど持ち上げてくれる彼、<今回の電話の目的は何だろう?>。そんな疑問を抱いた頃、その答えとなることを持ち出してこられた。

 「会社に事実が伝えられると困るのです。そこで相談なのですが、病院側に電話を入れていただき、お客さんから直接に寝台自動車の要請があったことにして欲しいのです」

 彼には申し訳ないが、そこからのやりとりは適当にお付き合い程度にし、しばらくして会話を結ぶ言葉を発して切ることとなった。

 それから15分ぐらい経った頃、そのご遺族から直接お電話を頂戴することになったが、上述の一部をお話申し上げ、弊社は「病院に電話をいたしません」と説明し、定められたお時間に寝台自動車でお迎えに参上することを申し上げた。

 彼は、きっと上司から叱られた筈。ひょっとして始末書という問題に発展したかも知れないが、それは、弊社が関わる問題ではなく、ここではっきりとお伝えさせていただくところである。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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