2002-12-29

事前相談での怒り    NO 298

高齢の方が事前相談に来社され、スタッフが対応していると、「これは、社長に相談したい」とおっしゃられ、何か特別な事情があるようで、私が担当することになった。

 伺ってみると、奥様のご兄弟が入院されているそうで、もう、数ヶ月の寿命であることを医師から告げられたそうだ。

 そこで、これから残された時間をどのように過ごされるべきかとアドバイスを始めようとした時、突然、涙を流されながら悲しみの胸中を打ち明けられた。

 入院されておられる方は、未婚。ご本人の意思で「献体登録」をされているとのこと。

 そこで、ご兄弟の方が登録されている大学病院に電話相談をしたところ、「この先、2、3年は、献体を受ける状況ではない」と返されたそうだ。

 私は、献体についての知識を持っており、これまでにも献体された方の葬儀も担当してきたことがあるが、拝聴したお話には、正直言って衝撃を受けてしまった。

 一時、献体の呼び掛け運動が盛んな時代があったし、弊社も資料を用意し、アイバンク、イヤーバンク、骨髄バンクなどに併せて社会啓蒙への協力活動もしてきた経緯があり、今回の病院側の対応には怒りが込み上げてきた。

 献体を受け付ける大学病院や団体は、近畿地方だけでも10数箇所存在している。きっと、中には献体を必要としているところもある筈だろう。

 こんなIT社会にあって、こんなレベルの情報交換システムが組まれていない状況を耳にして、社会の「ひずみ」を知ると同時に、教育の最先端の世界で「文化」が完成していないという恐ろしさを感じた次第である。

 献体やアイバンクなどには、過去ログに書いたように宗教的問題が絡んでくる難しさもあるが、人生の終焉に向かって生きられた本人の意思の尊重なくして人の社会の尊厳は築けないと考える。

 ご本人の意思だけではなく、その方の崇高な「人間愛」や「生きた証し」に対する責任はどうなるのだろうか、疑問に思われてならないところである。

 来社された方へのアドバイス。そこで役立ったのはインター・ネットの存在であった。

 献体に関する様々な情報をプリントアウトし、それに目を通された時、その方は、やっとほっとされた表情を見せられた。

 もうすぐ、新年を迎えるが、この方のご家族や親戚の方々には重苦しい年末年始となるだろう。

 正月を病院で過ごされる方が数百万人はおられるだろう。ご家族も大変だろうし医師や看護士さんなど医療関係者も大変だと拝察する。

 正月、お盆、ゴールデンウイーク。これらの時期は、我々葬儀社の経営者が、スタッフを休ませてやりたいと思い苦しむ風物詩でもある。
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