2012-07-02

怖~い話③  NO 2973


 夕方、血圧測定をしているとインターフォンが鳴った。受話器を取って確認してみあるとスタッフが「**です」と名乗っている。そこで測定器を解除して出て行ったら、私に届いたお中元をを持参してくれていた。

 相手様は数年前にご主人の葬儀を担当させていただいたお方。それからずっとお中元とお歳暮を届けてくださるので恐縮している。

  玄関にやって来たスタッフの隣に制服を身に付けた知らない人物が立っている。小泉チルドレンで話題になった杉村大蔵君によく似ている。今日からスタッフの 一員として勤務することになったそうだが、車の運転には気を付けて、人生とは加害者になるな被害者になるなと伝えておいたが、きっと変なオジサンだと思わ れたと想像する。

 昔、ある脚本家からアポがあり、会ってみると想像もしなかった提案と要望があった。それは、過去に私が書いた本の中にあった小説のドラマ化だが、ドラマというのが気に入らず、ドキュメントならということでお断りした出来事があった。

 テーマとなったのは最近になって表面化しつつある問題で、事故死、病気灘などの自然死、事件死の判断が専門の検視官による解剖に至らないケースもあるという現実で、我々葬祭業に従事する立場で知らない内に犯罪の手伝いをしてしまう危険性についてしたためた物語だった。

 全国で死亡原因が不明というケースで解剖されないことも多く、過日に観たテレビドラマでは、東京23区では解剖されるケースがあるが、それ以外ではその可能性が低いという隙間を狙った犯罪の謎を追う刑事という設定だった。

  私が書いた小説では医師の診断書に秘められた問題を追及するストーリーだったが、ちょっと悪賢い人なら我々業者を騙すことは簡単なことで、事件死の故人を 悪意も猜疑心もなく知らずに葬儀を担当してしまう恐ろしさで、火葬されて遺骨になったらある意味完全犯罪が成立してしまうのだから大変である。

 そんなところからその小説の具体的な内容については書かないが、ご笑覧いただいた方々から「考えもしなかった問題提起だ」というお言葉を多く頂戴した。

  これも書いたことだが、映画「恍惚の人」の放映後、テレビ局がテレビ放映を原作者の有吉佐和子さんの懇願したそうだが、有吉さんは頑なに固辞され、誰もに 訪れるであろう社会問題を寝転んだり食事をしながらの茶の間で観て欲しくない思いを伝えられ、映画館まで足を運んで欲しいという考え方に感銘を受けたこと があった。

 その後、伊丹十三さんの有名な「お葬式」という映画が完成し話題を呼び、それをテーマに映画評論家や宗教者と宗教雑誌で対談 したことがあったが、その際、その映画評論家も「恍惚の人」の出来事を話され、「お葬式」という映画も劇場オンリーとなるかも知れませんねと言われたの に、それから半年も経たない内にテレビで放映されてしまったので残念に思ったこともあった。

 私が書いた問題提起が「恍惚の人」や「お葬式」のように社会の表面で着目されることはないだろうが、死の尊厳という観点からしても真剣に考えるべきで、ドキュメンタリー的な番組なら協力をしてもよいと考えるこの頃である。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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