2003-07-01

儀式の空間     NO 472

深夜のホテルに入る。バンケットルームのあるフロアには、エレベーターが止まらないセキュリティ・セッティングがされている。

 仕方なしに3階までエスカレーターを利用し、そこから上には作動していないエスカレーターをテクテク歩いて上がった。

 これは、何度体験しても歩き難いもの。段差の高低が一定していない上がり口と降り口。この気持ち悪さを体験された方も多い筈。

 式場となっているフロアに着く。長い廊下を行くと、女性スタッフ達がメモリアルコーナーをセッティングしている。

 今回のこのコーナーのコンセプトは「手造り」。悪戦苦闘しながら段々と「かたち」が出来上がってきていた。

 思い出の写真コーナーの下に10冊ぐらいのノートがあった。それは、入退院を繰り返しておられた故人の闘病生活の記録。それは人生の黄昏を見事に生きぬかれた故人の生きられた「証」のようで感銘を受けた。

  このコーナーに1枚だけ大きなお写真を。そんな提案がスタッフからあり、数百枚あるお写真から厳選したのは、仕事の現場のお写真。海上の橋梁工事の視察に 出掛けられた時のものだろうか、ライフジャケットを身に着けられたヘルメットのお姿が何とも言えないご表情で、これは、ご参列された方々から予想以上の反 響があり、「かわいい」というお声もあった。

 さて、リハーサルはスムーズに終わったが、その後、照明へのこだわりを表現してくださるプロスタッフ。彼らが明け方までご尽力いただいたとの報告を受け恐縮している。

 そんなプロ達に支えられた本番、難しいシナリオ構成を見事にやり遂げてくれた。

 弔辞が7名に2名のご謝辞。これだけで1時間と予定していたが、ちょうど計算どおりになった。

 この他に様々なプログラムが組まれ、参列の皆さんを長時間お待たせすることになる。失礼だが必然として「怒り」のご心情も生まれる筈。これを和らげ払拭させるにはひとつの方法しかなく、担当スタッフに強調したのが「厳粛の世界」。

 「ここは、普通の世界ではないのだ。一人の方が死を迎えられたのだ。悲しみの遺族が存在している。これだけの方々とのご交誼があったのだ」

 そんな思いを抱いていただければとの思いをコンセプトとして重視したが、ご多忙の中を長時間お待ちくださった方々には、きっと抵抗感を抱かれた方もおられたものと拝察している。しかし、私が与えられた責務の中で1番大切に考えなければならないのは、故人なのである。

 えにしに結ばれた方々が会葬され、献花をされる。そこで、「自分は、生きているのだ。自分は、送る側の立場なのだ」とのご心情が少しでも生まれることになれば、ご葬送の意義に結びつくものと信じている。

 お一人の偉大な人生のご終焉の儀式を担当させていただいた。正直申し上げて久し振りに疲れた。しかし、「厳粛さに感動した」とおっしゃってくださった施主様のお言葉にホッとした。それが、故人のお声のような気がしたからだ。

 与えられた会場空間が儀式空間として「神変」出来たと思った瞬間でもあった。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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