2002-11-01

あたたかいハプニング     NO 243

一般的な葬儀社で純粋な「神式」の葬儀を担当することは少ないもの。平均して年間で2パーセントぐらいだろうか。

 神社神道、天理教、黒住教、金光教の他にも多くの神道系宗教が存在するが、弊社では6パーセントぐらいの担当があり、葬儀社の中では神道葬儀が多い業者として認識されている。

 神道に於ける「通夜」の名称が異なり、宗教の異なりによって「遷霊式」「遷魂式」「通夜祭」「遷霊祭」と称されていることもある。

 神道での通夜には、共通する祭儀が行われる。それは、故人の霊魂を「みたましろ」に移される神事で、この間は式場の明かりをすべて消灯して行われる。

 これらを初めて体験される方がいれば、「電気が消えた」「停電だ?」「どうなっているのだ?」との声が発生することもあたりまえで、開式前に消灯の意味を伝えておく必要があるだろう。

 こんな神道の葬儀に携わっていて、いつも思うことがある。それは、電気のない時代のことで、さぞかし風情があっただろうなと推測している。

 消灯して神事が行われ、再度照明が点けられる。電気とローソクでは趣が全く異なるであろうし、このような祭儀式を構築された次代のことを慮ると、電気の時代の予測はなかっただろうし、我々葬儀社という職業の出現も考えることはなかったものである。

 神道の場合、式場での消灯のタイミングが重要で、式場の物理的事情からあちこちにあるスイッチや電源差込それぞれにスタッフを配置し、インカムで一斉にオフ、オンの指令を出さなければならないこともある。

「右前方の蛍光灯。どうして消えないのだ? 誰が担当だ?」と怒りの声を発すると、担当者がお客様の質問に対応中ということもあり、それからは、この時間帯は、「持ち場を絶対に離れるな」という強い命令を出したことも懐かしい。

 ある神道の通夜が厳粛に行われていた。斎主が入場され神事の式次第が始まった。間もなく消灯というところで5人のスタッフがスイッチのところにスタンバイ。「消灯」というコメントでそれぞれ見事なタイミングでスイッチが切られ、式場内が暗闇の世界になった。

 その時、ハプニングが発生してしまった。「怖~い。お化けが出る」

 それは、幼い子供の声だった。続いて苦笑がコーラス化してしまった。しかし、この時の斎主さんは素晴らしい方だった。真っ暗な中で、次のように言葉を掛けられたのである。

「怖くないですよ。すぐに終わりますからね。これから、神様にお願いをして、お婆ちゃんをお迎えしていただくのですよ。お婆ちゃん、有り難う。神様、お願いしますと言いましょうね」

 子供は正直である。「お婆ちゃん、有り難う。神様、お願いします」

 苦笑が止まった静寂の中に、そんな可愛い声が聞こえた。

 通夜が終わった。「いい通夜だったね」。
多くの方々が、そんな言葉で遺族を慰められ、上記のあたたかいひとときに和やかな表情をされたのがとても印象的だった。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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