2002-09-08
秘められた大事件 中 編 NO 189
このホテル担当者は、これまでに何十回もこのパターンでの経験があり、そこそこの自信も抱いていたが、委員長のおっしゃった「故人のことの把握」の言葉には、寒気が走ったそうだ。
「お言葉を返すようで恐縮ですが、何処のホテルでもこの形式で進められており、当ホテルでも、これまでクレームを伺ったことは一度もございませんが」
「君は一流ホテルのホテルマンだろう? これまでのクレームの有無に関係なく、この会が終わった後に確実に生まれるクレームが、今、ここで発生しているとは気付かないのですか? クレームが発生することが分かっていて、どうして対応をしないのか不思議でならないところだ」
「・・・・・」
「で は、伺おう。**君のお別れ会を行う。入り口で受け取った花を供え、2人の言葉を拝受し、献杯で食事が始まる。これなら単なる食事会に**君の遺影を飾っ ただけではないか。これでは主客転倒であり、異常なスタイルだと思わないか? どの部分で故人を偲ぶことが出来るのですか? 食事中の思い出話しがそれに あたるのですか? それだったら話題になるような好物を一品ということも大切でしょうし、そのことをホテル側が皆様に伝える姿勢も重要じゃないですか?」
「その程度のことなら対応可能です。食材のよっては予算がアップすることもありますが」
「君 は、何と失礼なホテルマンだ。誰が予算の話をしましたか? 私が言っていることは『心』のことでしょう。『思いやり』のことでしょう。必要な費用なら納得 をして支払いますよ。私が忙しくて今日まで打ち合わせが出来なかったことは申し訳ないが、一流ホテルと称されるなら、こんなことぐらい瞬時に対応出来るレ ベルの話ですよ。君達が描いたラインに我々を乗せようとする姿勢が気に入らないところだ。ところで、献花の花は何を用意しているのかね?」
「菊ですが?」
「それはご家族が決定されたのかね?
「はい。菊とカーネーションを提案いたしまして、菊ということに」
「故人が好きだった花を知っているかね? 確認していない筈だ。**君には菊は似合わないと思う。もしも菊でいいとしてだ、ラッピングはどうなっているのかね」
「菊一輪を献花していただきますが、ラッピングは経費を要しますので提案いたしておりません」
「裸の花をお客様に手渡すことに抵抗はありませんか? それをお供えになる方の心情を考えたことがあるかね? また、委員長である私と施主だけには別の花を考えているということはないのかね?」
「はい、伺ったご人数分の菊を用意しているだけです」
「このホテルのお別れ会のサービスは劣悪だ。どこが一流ホテルだ。私が委員長の責任の立場から、すべてを見直すことにする。施主さんや家族の了解を得ている。故人の友人達も多くやって来るのに、こんなレベルでは羞恥の極みだ。何より故人に申し訳が立たない。いいね?」
「はぁ・・?」
「私や多くの友人達は、これがホテルのお別れ会だという感動の体験をしている。君には協力を願うが、一生に一回限りのことだということを忘れないように」
明日に続きます