2002-04-25
故人が「お気の毒」です
財界の著名人や中小企業の創業者さんが亡くなられ、社葬のプロデュースを依頼されることが多いが、第1回目の打ち合わせ時に「ホテル」を会場としたいと、相手側から希望されるパーセンテージの高さに、社会の変化を確信している。
これまでの体験で、プロデューサーとして、大変失礼なことを何度か申し上げたことがあるが、そのすべてが後になって感謝されたのだから面白い仕事である。
ひとつは大阪ドームを希望された企業様。故人は創業の方で参列者予想は1500人。当日の天候の心配がないからとのお考えで進んでいた。
「参列者に笑われることは止めましょう。故人がお気の毒です」
それが私の第一声だった。会議室が一瞬にして凍りづくような雰囲気になる。
「社葬は、故人を見世物にしてはなりません。芸能人や知事さん、市長さんのように、観客席が半分埋まる場合には意義がありますが、ダイヤモンドの上にステージを設営し、観客席に誰もおられない葬儀に、何の意味があるのでしょうか?」
それが「ドーム球場」を使用すべきでないとのコンセプトだった。
我々プロは、関係した以上、自分もプロとして笑われたくないことを考えるもの。自分の利益が多い方向に進んでも、それが取り返しのつかない結果となれば、プロとしては後悔することになるからだ。
そのお客様は、結果としてホテルを会場とされ、徹底された「おもてなしタイプ」の社葬を行なわれ、大阪ドームを断念することになったことを、非常に喜んでくださった。
一方に、東京、大阪、名古屋の3箇所のホテルで、衛星中継を利用して同時に社葬を行ないたいという会社があった。
「失礼なことは止めましょう。故人がお気の毒です」
全国から参列される方に、最寄の会場にお越しいただけるとの発想から考えられたものだが、これは、企業側の「驕り」の姿勢がありありと見え、結果として話題を呼ぶことにはなるが、参列者からは「笑い」が出ている事実を知っていただきたいものだ。
社葬がいかに「かたち」や「形式的」なもので企画されるといっても、映像というバーチャルに手を合わせる行為をお客様に求めるのは、これ以上の失礼はないとご認識いただきたいものだ。
「3個所も用意しているんだ。何処かに来られるだろう。来なかったら大変だぞ」との強迫的プレッシャーを与えることもあり、来賓と呼ばれる方々はメイン会 場に参列することになり、他会場は「その他大勢扱い」で、適当に軽い食事でも振る舞っておけばよいとの企画になってしまう。
全国に支店を展開されている企業さんであれば、各支店にご遺影と花を飾り、記帳所を設定することで解決するべきではないだろうか。
馬鹿げた経費を要し、嘲笑される社葬となれば、故人、ご遺族が余りにも気の毒である。
久世栄三郎のプロデュース。それは、いつも故人と遺族を大切に考える。だから、主催される企業さんには、いつも厳しい言葉で接してしまうのである。
社葬は、確実に変化している。無駄を割愛した企画力、そして、故人への礼節と、会社の社員全体の総意で進められているとのコンセプトが重要である。