2002-05-16

びっくりしました

災難は、地震と同じでいつ発生するか分からない。また、災難は、遭遇の時と場合によって、命の明暗を分けることもあることを体感したことがある。

1年ほど前、信じられない災難に出会った。それは、ふとした運命の悪戯かも知れませんが、ひとつ間違えば新聞、テレビで「密室の事件」として大きく取り上げられることになっていただろうし、私の葬儀が行なわれ、この「独り言」なんて生まれていなかっただろう。
 
事件に遭遇したのは東京のあるホテル。その日のスケジュールを終え、関係者と居酒屋で楽しい時間を過ごした後だった。
 
ルーム・キーをフロントでいただき、部屋に入ったのは午前2時頃。ホテルを提供くださった先方様は、私の身分に不相応な「スイートルーム」をご用意しておられ、恐縮の心情を抱きながら立派なバスルームの蛇口をひねった。
 
湯の温度の確認調整をしてからソファーに戻り、その日の新聞に目を通しながら少しの時間が流れる。

しばらくして、浴槽を溢れさせたら大変と覗きに行ったが、まだ2分の1程度。

私は、6分目ぐらいの湯量になったら入るタイプで、湯船に浸かりながら蛇口から出る湯の音を聞くのが好きだったが、その時は、新聞記事の読み残しに興味があり、もう一度ソファーに座り、続きを読み出した。
 
事件が発生したのは、そんな時だった。「ガーン」という轟音。それは、隣接の部屋、上下の部屋の方々も起こしてしまう程の大きな音。同時に「ゴォーー」「ザーー」という音。

一瞬、何が起きたかさっぱり見当がつかなかったが、落ち着くと、轟音の発生しているのは私の部屋のバスルーム。近づくと音が大きくなり、やはり間違いない。

恐々、扉を開けて見た。
 
中は、朦々たる湯気で何も見えないが、ふと垣間見えた足元が水浸しになっていることだけが分かった。

<下の部屋に迷惑が>、<大変だ。蛇口を止めなければ>と思った私は、湯気の温度が高温でないことだけを確かめ、思い切って中に突入した。
 
中は湯の大雨、一瞬にしてずぶ濡れ。やがて、蛇口の栓を手探りで発見。水と湯の両方を閉じた。
 
しばらくして湯気が少し治まって来た時、湯船の中に信じられない物が落ちているのを見た。蛇口である。
 
長さ30センチ以上もある金属製の重くて立派な蛇口。それが何かの弾みで飛ばされて天井に当たり、湯船の中に落ちたことだけは理解出来た。
 
この時の湯船の量は6分目ぐらい。もし入っていたらカウンターパンチで即死。そうでなくても、心臓麻痺につながっていたかも知れない。
 
濡れた身体をバスタオルで拭きながら、フロントへ電話を入れる。

「こんな時間に申し訳ございませんが、お部屋におこし願えませんでしょうか?」
「何か?」
「お風呂で問題が発生したのです」
「明日の朝では?」
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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