2003-05-11

フィクション 冠婚葬祭互助会 ①   NO 426

あるルポライターがいた。彼は、経済分野を専門としていたが、ある情報を得て始めた取材から、いつの間にか「社会派」としての取り組みに変化している自身に気付いた。

 彼が取材の対象にしていたのは「冠婚葬祭互助会」。そのきっかけとなったのは新聞記事。
「解約トラブル続出」と記載されていた見出し。そこで、すぐに社会背景を考えてみた。

 大手の銀行、保険会社、スーパーの経営危機が伝えられている最中、高齢社会の到来で葬祭業が成長産業と捉えていた考えに、<何かがある>と直感した彼は、その日から取材を始めた。

 その日の内に理解できたのは「少子化社会」に「核家族」。団塊世代の子供達の結婚時期を過ぎると、ブライダル産業の凋落が見えるし、日本人の根底にあった筈の儒教精神の稀薄化も強く、家と家から人と人への変化という、媒酌人を歓迎しない新郎新婦の現実も分かってきた。

 これまでの経験を生かして取り敢えずシナリオをつくり、本格的な取材行動が始まった。

 宗教者、葬祭業者、結婚式場、ホテル、仕出し屋、葬祭用品商社など、彼らしいするどい嗅覚が的を射て、思わぬ事実情報が次々に入手されてくる。

 互助会ビジネスの歴史を知りたくて関係の役所にも出掛けたが、そこで、過去に発生していた問題を知ることになったのは拾い物。

 この時点で彼が整理した資料による分析は、次のようなこと。

 互助会は、株式会社組織である。営業戦略の先には葬祭があり、その抵抗感を払拭するのに冠婚を表面化する営業活動が望ましい。ブライダルではホテルに対抗出来ないところから結婚式場を建設する。料理、引き出物、貸衣装など、それらはすべてビジネスになる。

 しかし、このビジネスを回転させて行くには何より会員の獲得が重要。そこで考えたのが組織の名称。「都」「府」「県」「市」などの冠を被せ、自治体が運営しているイメージ戦略が欠かせなかった。

 しばらくすると、役所への苦情が入り出した。それらの多くが「国や県が関係しているのですか?」とか「紛らわしい」というもの。

 関係庁がすぐに対策を取り、都道府県の冠を外させる指導に入ったが、この時点では、多くの会員が入会しており、掛け金での運転資金が賄える状況にあった。

 冠婚では、予想していた問題が表面化した。新郎新婦の一方が会員というケースで、相手側がホテルを希望するということが多く、これらの解決策のひとつとして家具や新婚旅行の提供という一時的な策で対応したが、その大半は「何れ、役立つことも」としていたようだ。

 こんな対応では納得するものではないが、ここで会員が勝手に思い込んだのが掛け金に対する「金利」。これらは、将来の大きな問題の起爆剤のひとつでもあった。

 同時に発生していたクレームには、どうしても葬儀の問題が集中した。自宅やお寺での葬儀ばかりの時代、その現場対応が素人集団。お寺や親戚達の苦情が相次ぎ、それらは入会を勧誘したセールス担当員への攻撃にもつながり、意外な交友関係の破綻という悲劇も生まれていた。

 このビジネスは儲かる。そんな安易な考えで、冠婚葬祭互助会が全国に誕生してきたが、それからしばらくして予想外の問題が発生した。

 それは、経営者の資質にも原因があったが、小規模な組織の経営破綻が起きたのである。

               明日に続きます
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