2003-03-10

悲しみの裏側で     NO 368

この数日に担当した葬儀にスタッフ達の成長が見え、嬉しく思っている。

 スルメがお好きだったお爺ちゃんのためにと、買ってきたスルメを柩の中に納めてお喜びいただいたこともあったが、いつも散歩されておられた愛犬の撮影に行き、その写真を納めた葬儀でも感動のお言葉を頂戴した。

しかし、そんな彼らが、昨日の葬儀では大変な苦労をしていた。

 お名前が梅雄さん。そんなところから『梅の花』がお好きだったということが分かったが、取引先の生花会社にも手持ちがなく、あちこちに手配することが始まった。

 女性スタッフの1人がインターネットを駆使して探しているが、これもダメ。
トータライフ協会の掲示板を通じ、暖かい地方のメンバーに協力を願い、航空便の宅配で入手という策も考えたが、取引先の花屋さんは「花は花屋が責任を持ちます。葬儀だけに集中してください」との有り難い言葉を贈ってくれた。

 当日の朝から創作したナレーションも二通りを用意。梅の花の有無でストーリーを変える準備をして式場に向かった。

 やがて、導師の焼香が終わり、表白の法儀が始まる寸前、式場の外を担当していた数人のスタッフに動きがあった。

 1台の車が着き、生花会社の専務が立派な梅の花をラッピングしたものを手に、誇らしげに持って来てくれた。受け取った女性スタッフからインカムでそれぞれに情報が伝えられる。

 私のサイドに待機していたスタッフから「届きました」と報告が入る。それは表白を終えられる2分ぐらい前の出来事。すぐにパソコンを開け、梅の花バージョンのナレーションへの変更作業に入り間に合うことになった。

 この葬儀は、本当に悲しい葬儀。定年を迎えられ「さあ、これから夫婦で人生の黄昏を過ごそう」という矢先、ご主人が突然の不幸に遭遇されご急逝。奥様のご悲嘆と落胆振りに目を覆いたくなるような状態に、女性スタッフと共に男性スタッフの数人も涙を滲ませていた。

 梅の花の入手で、奥様やご親戚方々のお心残りのひとつが解決することになった。ささやかな行為ではあるが、我々自身の心残りの解決にもつながることであり、担当スタッフ全員がほっとしていた姿が美しく見えた。

 ナレーションは、お寺様のご了解を得て、いつもより時間を掛けてナレーターを担当した。合計時間が7分25秒。前半の3分が「命バージョン」、後半を「人生表現」として組み上げてみた。

 参列者の中にも涙を流す人がおられたが、これは、決して「お涙頂戴型」ではないので誤解されないように願いたい。

 強い悲しみには涙を流すことが自身を守る大切な手段。涙の源は真っ赤な血液。それが透明になって滲み出るまでのプロセスに重要な意味が秘められてあり、より澄んだ涙を流していただくシナリオ構成を考慮している。
 
 二流の司会者がされるような単なる「お涙頂戴」では、透明の度合いがはっきりと異なる。私は、そんな自信を哲学として実践しており、ここに葬祭心理学の分析に生まれた司会者とは異なる「司式者」としての誇りを抱いているのである。

 悲しい葬儀が終えられたが、奥様の本当の悲しみがこれから始まるのである。担当スタッフには、そのケアのお手伝いに万全を期するように命じた。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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