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2003-05-17

ハプニング     NO 432

大きなお寺で大規模な通夜が行われている。式場は、2階。予想以上に弔問者が多く、1階にも人が溢れてパニック状態の寸前。

 10名のスタッフが上下に分かれ、インカムで情報交換を行っている。

 「現在、70名様を越えました」「150名様程度です」「もう250名です」

 刻々と数字が増えるが、式場の物理的事情はどうにもならないもの。通夜が始まる5分前には2階は満席。着席できない方が数十人おられる。そこで、インカムで伝えられる。

 「2階、満席です。1階でガード願います」 「了解」

 そして読経が始まり、やがて焼香の時間。ご遺族と親族が済まされ弔問者の焼香に進む。

 半数ぐらいの方が終わった頃だった。2階を担当するスタッフ達が慌てている。何か落し物を見つけたようだ。

 そんな時、1階のスタッフからとんでもない言葉がインカムに入ってきた。

 「こちら1階です。今、お帰りのお客様から落し物の捜索以来がありました。ご本人は、『確かに入れていた筈』とおっしゃるのですが、『家に置いてこられたかも知れない』と曖昧なのです。2階、確認ください」

 「2階です。落し物って、何でしょうか? どうぞ」

 「こちら1階。落し物ですが、入れ歯だそうです」

 その時、1人の女性スタッフが、「さっきのあれです。チーフが保管して受付へ届けると言っていました」と報告があった。

 チーフの判断力は信頼しているが、私には疑問が生まれていた。それは、弔問者が歩きながら入れ歯を落とすことが考えられず、それが<ひょっとして>故人の物で、柩の中に納めるためにご遺族が持っておられた物を落とされたということ。

 しかし、チーフは、それが弔問者の物であることを確認していた。なぜなら、ご納棺を担当したスタッフに確かめてからの行動だったからだ。

さて、ここで考えたい。落し物を受付へ届けるのは一般的だが、鍵や数珠などは抵抗なくアナウンス可能だが、羞恥心の伴う落し物は困りもの。アナウンスで広報するべきではないとなるのである。

 「自転車の鍵が受付に届けられております。お気付きのお方は受付まで」

 そんなアナウンスなら許せるが、「入れ歯」となればそうはいかない。今回は、たまたま発見したのがスタッフであり事なきを得たが、考えさせられるハプニングとなった。

 落し物だから受付へ。そのマニュアルの遂行には知恵が大切だろう。落とし主に絶対に恥を掻かせない配慮が重要サービス。

 「恥ずかしいことや。でもな、齢を重ねるとこんなこともあるのや。有り難う、助かったわ」

 やがて、見つかった落とし主のそんなお言葉が、ほっとした瞬間であった。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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