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2003-06-21

ロウテク     NO 464

故人の生い立ちナレーションを不要とおっしゃっていたご遺族。葬儀が始まる1時間前、急にお考えを変更され、「お願いします」ということになった。

 担当していたスタッフの顔が強張る。受注時にある程度の取材を終えているとは言え、原稿創作をしていないのだからあたりまえ。私の携帯電話に緊急救助の依頼が入った。

 このお客様、ラッキーな条件に恵まれておられた。私がいた所は、その式場から車で15分ぐらい。手元にノートパソコンを持っている。

 すぐに喫茶店に飛び込み10分で基本ベースを打ち上げ、式場に向かう。

 担当スタッフが取材したメモを手にして待っている。

 お茶やオシボリを担当する接待スタッフの準備室に入り、仕上げの創作を始める。

 4分30秒バージョンの原稿が完成したのは、開式20分前。そこから担当女性スタッフが目を通すことになったが、プリントアウトが不可能で、パソコン画面を見ながらのナレーションとなった。

 祭壇の両側にセッティングされた2台のモニター。そこに故人の思い出のお写真を編集したビデオが流れ、彼女のナレーションが始まった。

 ワードのページに表記されるのは25行だけ。そこから先は画面を下に動かさなければならないが、見失ってしまえば大変で、どの部分で移動のボタンを押すかが重要だった。

 横に立って彼女のナレーションを耳にしている。共に原稿を目で追いかけているのは当然。

 <今だ> ひとつの物語が終わり、次の章に入る前にボタンを押した。

<あれ?> 下部の文章が上がって表記された時、意外な仕掛けがしてあることに気付いた。そこで3行分ぐらい行間スペースが空けてあり、何の問題もなくスムーズにつながれていったのである。

考えて見れば簡単なこと。彼女は読み合わせの時点でそれに気付き、自分で細工をしただけのこと。そんなことさえ気付かない私のロウテク頭。でも、文章作りは絶対にロウテクの世界。

 葬儀が終わって、「あんなナレーション、どのようにして創られたのですか? 驚きました。有り難う」

 そうおっしゃってくださったご遺族のお言葉。ハイテクに強いスタッフ達に、ロウテクの重要性を再認識させたと自身を慰めている。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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