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2002-03-03

中止された「生前葬」・・・・・後編

「それだったら生前葬はおかしいでしょう。ましてや祭壇の設営や供花を拝受されるなんて、失礼ですが愚の骨頂です。どこのホテルがそんな低次元なことを受けると言われたのですか。見識と格式を疑いますよ」
「・・・・・・・」
「出席をされた方々がお帰りの際、どんな会話をされるか目に浮かびませんか」
「・・・・・・・」
「司会者が、**は、今日の日まで皆様のお陰で生きて参りました。本当に有難うございました。今日は、皆様に感謝を申し上げる会です。ごゆっくりとお過ごしください。お開きまでに、ちょっとした<ひととき>がありますが、何卒それまではご臨席くださいますよう」
そこまで言ったとき、突然、その人物の人差し指が私の目に向けられた。親の説教を聴かされる子供のような光景からの急変である。
「それそれ、その、<ひととき>とか言うのは、何ですか?」
 どうやら、心底から行いたいという要望があるようだ。
 決行させたくない私の心情が、少し揺らぐ。あまりの真剣な眼差しを受け、潤滑油的な意味を込めて話を進展させる。
「一人だけ、ご友人に弔辞をお願いしておくのです。もしも私が死を迎えたとして、君はどんな弔辞を読んでくれるのか、と託するのです。そして、その後が重要なのです。照明が落とされた壇上にいるあなたにスポットライトが当たるのです」
「謝辞か何か、挨拶をするんですか?」
「そうじゃありません。宣言式を行うのです」
「・・・・・・・・・?」
「今 日、この会場には私の家族達がいます。多くの友人達も来てくれました。ここで、皆様全員に<証人>になっていただきたいのです。それは、私が死を迎えた場 合の葬儀についてです。今から私の申し上げることをご記憶いただき、私の願う葬儀が遂行されることをご確認いただきたいのです。では、宣言いたします」。
「はい、はい、はい。いいですな。それ。それなのですよ、私のやりたかったのは。何も言わなかったのに、どうしてわかるのですか?」
「人生に黄昏が訪れると、人は、そう思うのです。私は、これを<黄昏・感謝の夕べ>と命名し、私と協会の知的財産にしているのです」

その方は、来社された当時、心臓を悪くされておられたそうで、この企画を遂行される前にご入院、病院から「有難う、嬉しかった。やりたかったな」との悲痛なお電話を頂戴した。どうやらご退院される日を迎えられることはないようで寂しい。       
でも、じっくりと伺った葬儀の時の要望だけは託されている。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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