2003-02-16

別れの神様   NO 346

司会を担当してきた葬儀、孫さんと曾孫さんの「お別れの手紙」を代読し、火葬場までお見送りし、その後の今日の仕事を休むことにした。

 風邪の症状を、これ以上に悪化させないためで、食欲はないが、無理に食事をしてから薬局で風邪薬を買った。

 食後のコーヒーと洒落込んで、帰路の途中にある友人の喫茶店で水を所望し、薬局のオヤジさんが薦めてくれたクスリを飲んでいる時、テーブルの上に置いてあったクスリのケース箱を見た彼が、とんでもないことを言い出した。

 それを聞いた私は、飲み込んだクスリを吐き出しそうになるほど苦しくなった。

 「このカプセル薬、『地竜エキス』と書いてある。地竜って何だろう? 土竜だったらモグラだし、そうか、ミミズのことじゃないか」

 服用数量の確認だけをしていた私は、そんな文字を見なかったが、飲んでしまった以上、どうにもならないこと。こうなれば薬効に期待するばかりと言葉を返した。

 そんな時、若い女性が来店し、カウンターに座ってマスターに愚痴をこぼし始めた。

 それによると彼女は、日曜、祭日にブライダルの司会のアルバイトをしているそうで、何れは本業にしたいと考え、担当した新郎新婦とのコミュニケーションを大切にと、暑中見舞、年賀状は元より、半年に1回は手紙を送っているとのこと。

 そんな彼女の愚痴。それは、店内にいた数人の客が一斉に耳を傾ける内容だった。

 「聞いてくれる、マスター。私、仕事が嫌になったの。去年に3組、今年に入って、もう2組も離婚したのよ。あれだけ多くの方々を招いて祝福されたのに、同僚の司会者から言われたんだけど、私って、別れの神様が憑いているとしか思えないの」
 
 そこまで聞いた時、<言うな、黙ってろ>と思っていた私の願い裏切り、マスターがやっぱり応えてしまった。

 「別れの神様なら、隣にいるよ。この人、お別れ専門。毎日、毎日、お別れただ一筋」

 「嘘っ、本当? 葬儀屋さん? これいい、最高。私、お葬式に鞍替えしようかな。マジで」

 この後の会話はご想像にお任せするが、「地竜」のイメージを忘れさせてくれたことは確か。

 「どうだろう、このお嬢さん。葬式は無理かな? 顔が派手で目立ち過ぎるからダメかも知れんわ」

 そんなマスターの笑い声を後に席を立ってきたが、地竜エキスの効力に期待しながら身を休める私。今日のお通夜は、スタッフに任せることにした。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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