2002-06-11

たった、ひとり   後 編   NO 102

「**ちゃんが、自分の力でお母さんの葬儀を行なうこと。それを大切に考えて欲しいの。葬儀屋さん、あなたなら出来るでしょ」

 彼女の全財産37万円ですべてを取り仕切る。お母さんが遺された結婚の時の為の資金、それには一切、手を付けない。
お母さんは、自分の葬儀は柩と火葬だけというお考えだったそうで、娘さんに対して、葬儀による負担を強いることを望んでいなかった。

それが、おばさんから伝えられると、私は、喪主の立場から、<それでやるしかない>と心を決め、現実的な内容を含め、具体的な「かたち」へのシナリオ構成を進めた。

「お母様を、どのようにお送りされることが望ましいのか。また、お嬢さんがお母さんにどんなことをして差し上げたいのか。この2点を真剣にお考えください」 

「私と母の最期の時となってしまいます。母が喜ぶことは・・・  でも、母が笑われないことだけはしたいと思っていますが・・・」

  私が初めに提案したのは、葬儀の日程であった。ご逝去の事実は、この時点で、この場にいる3人と、臨終を看取られた医師しか知らないところからの発想で、 一般的スケジュールで進めると今晩がお通夜になるが、今日の1日は、親子だけの仮通夜として、誰にも知らせないという案を申し上げた。

 「それ、いいわ。やっぱりあなたね。**ちゃん、どう? 1回だけしか出来ないことだし、して欲しいことがあったら何でもいいから言ってね。今晩は、私と2人で静かに過ごすの、そして、いっぱい泣きましょうね」

 「少しでも一緒にいたいのです。そんなことが出来るなら嬉しいお話です」

 意見は、一致。シークレットの作戦会議を始めたが、すべてはおばさんの演技力に掛かっている。医師への連絡もお願いし、もしも近所の方に知られた時の作戦も提案。その場合は、おばさんが「今日はふたりだけ」という「ガード」を張って守っていただくことになった。

 このシナリオには、ひとつの関門があった。それは、宗教に関することで、お父様の葬儀の導師をおつとめいただいたお寺様の存在で、枕経をどうするかということ。
 
し かし、これに対してもおばさんの存在パワーは強く、その住職とはPTAの役員同士のつながりから、夜が明けたら参上して事情説明を行い、平服でおばさんの 家に来ていただいてから進めるという知恵を授けてくださったが、お布施のことも「任せなさい」とおっしゃってくださったことも有り難かった。

 とにかく決まったこと、それは、2人だけの静かな仮通夜の決行。

や がて、祭壇の形式もお柩を中心にやさしいイメージのお花で囲み、白木祭壇を一切設営せず、女性的でシンプルな祭壇を考慮することが決定。おばさんのご供花 や隣組の方々、彼女の会社からお供えされるであろう供花を、すべてお名前を割愛し、祭壇を飾ることに活用することになり、その決行におばさんが全面に協力 していただけることになった。

柩、枕道具、線香、ローソク、ご本尊、霊柩車、ハイヤー1台、遺影写真、挨拶状、ドライアイス、宗教用具、通夜、葬儀の参列者への返礼品、御布施、そして、葬儀に関する人件費一切を含めて30万円と少し、そんな予算も決定され、彼女の会社にもおばさんが
電話連絡をされることになり、今後の仕事の立場に差支えがないような配慮まで考え、「愛を訴える」作戦でお願いするシナリオが完成した。

そうそう、この予算のお話の前に香典に関するやりとりもあったが、それは、明日の番外編に続きます。
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