2002-05-29
貴重な体験 後 編 NO 89
それから約一週間後、書留、配達証明での通知状が届けられた。
封を開けると中には「証人喚問」の通知状が入っており、出廷日時、出廷場所が明記され、いかにもお役所イメージを感じるものだった。
過日にやって来られた刑事さんが言われたように、「正当な理由がなく出廷しなければ問題がある」との厳しい付言もあった。
やがて、その日がやって来た。タクシーで立派な裁判所に入り受付を済ませ、指定された場所へ行き、入り口の扉の横に掲げられていた「**号法廷」という表記版に目をやった。
そこには開始時間や裁判官名、そして事件に関する表記がされていた。
廊下でしばらく待っていると、官吏らしき方がやって来られ、私の氏名を確認され、書類簿の記載と照合、それから「法廷内の規則、マナーなどの説明を受けた」。
いよいよ初めて体験する本物の裁判。私の名前が呼ばれ、「証人、前へ出なさい」と促され、緊張の面持ちで演台の様な証言席に立ったが、その時に初めて被告となっている人物を見ることが出来、視線が合った時、互いに軽く頭を下げた。
法廷内はテレビドラマの裁判風景と全く同じで、弁護人の発言が終わった後のようだった。
制服姿の官吏が近づき、嘘、偽りを証言しない。そして、それが罪になるとの説明を受け、次に宣誓書を読むように要請され、プロらしく流暢に、そして朗読風に読んだ。
「証人の住所、氏名、生年月日、職業を述べなさい」。それは裁判長のお言葉で、すべてを答えるとすぐに本題に入った。
過日の写真が私に手渡され、尋問が始まる。
「その写真は、証人の経営される葬儀会社が担当されたものですか?」
「はい、その通りです」
「それは、何を以って断言出来るのですか?」
先日、刑事さんに言ったことをそのまま伝えることになり、葬儀施行日の確認まで終わったが、ここで、アリバイという問題に絡む「時間」のことを質問され、いよいよ本題に入る。
「ここから重要なことです。葬儀が行われた時間は?」
「午後1時から2時です」
「では、その集合写真を撮影されたのは、何時頃ですか?」
葬儀での親族の集合写真、それらはご遺族のご要望に応じて撮影申し上げるが、一般的には、葬儀の始まる30分前から15分前頃に撮影されており、その旨を伝えると、何かしら法廷内に動揺と緊張の空気が生まれたような気がした。
「重要なことです。その撮影が行なわれたのは、午後0時30分から0時45分の間ということになりますね? 考えて、慎重に答えるように」
責任重大になってきてプレッシャーに襲われる。そんな時、裁判長は追い討ちを掛けるように質問が続く。
「葬儀の終了後に撮影されることはないのですか?」
「重要なご親戚がお揃いでない場合、お寺様が退出された後に撮影することも時折あります」
アリバイの成立、それは、葬儀の「日」だけではなく、「時間」が重要ポイントになっているようだ。そこから集結に至るまでの意外な展開、それは、テレビドラマ以上の謎解きが生まれることになる。
< 明日の「番外編」に続きます >