2002-05-28
貴重な体験 中 編 NO 88
刑事さんが来社され、葬儀の写真を出され、「やはり間違いないようですね」と言われたら、どんなことを想像するでしょうか。
思い浮かぶ言葉は法に触れる「犯罪」。
<私の会社が何か>との恐怖の疑問に襲われ、写真をもう一度拝借し、隅から隅まで何度も見つめ直すが、どのように見たって単なる集合写真。弊社のスタッフが写っていることもない。
謎の深まる中で写真をお返しした時、刑事さんの口から驚愕の言葉が飛び出してきた。
「後日に、裁判所から呼び出し状が来ます」
裁判所と言う言葉を耳にして、一瞬「民事」に関わる問題かなと思ったが、警察が民事に介入しないという一般常識を思い出し、いよいよ不安感が募り、「刑事事件ですか?」と思わず言葉を発してしまった。
「裁判所、呼び出し」。その道の専門家が職業上に使用している言葉でも、相手にとっては初めてで衝撃を与えることも多く、医師や弁護士、また、我々葬儀社も意識しておかなければならないところである。
そんな動揺を感じられたのか、刑事さんは、弊社が犯罪に「直接」関与していることではないと説明をされたが、直接、間接という言葉も相手が刑事さんだけに気に掛かる。
やがて、笑顔を見せられ、出したお茶を飲み干されると、立場上で許される範囲内のお話しをしてくれることになった。
それによると、ある人物が犯罪の容疑者として逮捕され、幾つかの余罪の確認まで進み、似通った事件の洗い出しを行なっている中に、あるひとつの事件が浮かび上がってきたそうだ。
しかし、容疑者は、その件については頑なに否認し、弁護士さんの調査から、その容疑を掛けられた日が親戚の葬儀に参列していたことが分かり、俗に言われるアリバイの確認調査に来社された訳であった。
それで、なぜ私が裁判所に行かなければならないのだろうかと、次の疑問にぶち当たる。
それについて、刑事さんは、「証人出廷です」と教えてくれることになったが、「余罪」に「アリバイや」「証人出廷」とくれば、我々一般人には混乱が生じるのも当たり前。
少し落ち着きを取り戻した時、先ほど拝見した写真の残像を思い浮かべていた。
<あの方々の中に当事者が、どの方なのだろう?>、そんな疑問が過ぎる。
もう一度、写真を見せていただけませんかと要望したが、今度は拒否されることになった。
事務所の壁にある時計を見られた刑事さんが、「次の仕事に参りますので」という言葉で立ち上がられた時、最後のお願いという言葉を投げ掛けた。
「証人出廷って、何ですか? どんなことをするのですか?」
しかし、返ってきたお言葉は、職業上の冷たさの感じるものだった。
「裁判所から証人喚問状がきます。正当な理由なくして欠席されると罪になります」
これは、大変なことである。一方通行的な通達のようだが、1人の方を審判されるという世界に課された定めであり、私自身も「えにし」というものに結ばれた責務との思いが生まれ始めていた。
明日に続きます