2003-02-03

思い出を形見に    NO 333

今、明日の葬儀のナレーションを打ち込んでいる。故人は、昭和11年生まれ。私が「ヘラブナ釣り」の道楽を過ごしていた頃からの付き合いがあり、私の子供達を可愛がってくださったおじさん。

 この方には、いっぱい思い出がある。季節の訪れの度に「さつき」の見事な盆栽を事務所に持参されたことも懐かしい。

 愛媛県出身の方で、お父さんの葬儀を担当し、納骨に故郷へ帰られる時、横着なことだがオレンジフェリーでご一緒して、ヘラブナ釣りで有名な「おはなはん」の故郷、大洲の奥にある「鹿野川ダム」に出掛けた。

 私ともう1人の方と釣りをしている間、おじさんは、私の車を運転して八幡浜にあるお墓に納骨されてきた。

 宿泊したのは釣り宿。ここは俳優の近衛十四郎さん、松方弘樹さん親子がよく来られ、釣果を記したノートに、そのお2人が前々日に大釣りをしたことがしたためてありワクワクしたが、残念にも釣果ゼロ。いわゆる「ボウズ」というところにおじさんが戻ってきた。

 「思った通りじゃ。納骨に来て魚釣りなんて、ボウズに決まっている。しかし、明日は釣れるぞ、わしが用事を済ませたからな」

 その夜、「明日こそ」と思って一睡も出来なかったことをはっきりと覚えている。

 ある日、おじさん夫婦が自宅に来られた。ご長女が結婚されるとのこと。私達夫婦に招待状を届けられ、私に祝辞を頼むと言われた。

 私は、その時にお話しされたおじさんの気持ちが痛いほど理解できた。そこで、結婚式場と懇意にしていたところから、披露宴の当日に支配人、司会者、演奏者を巻き込み、特別な演出を仕組んで朗読をやった。

 その良し悪しは別にして、式場とおじさんの親戚の皆さんの語り草になり、親戚のおばさんから「来年、娘が結婚するの。ギャラを出すから来て欲しい」と頼まれた。

 やさしくて素晴らしい奥様の存在が傷ましい。その披露宴前に伺った娘さんへ思いを語ってくださった心情が美しく、今でも泣けてくる。

 おじさんには2人の女の子があり、それぞれが結婚され、今、5人の孫さんの存在がある。

  「娘が嫁いで行く。オヤジらしいことが出来なったが、母に似て、いい娘に育ってくれた。わしは、披露宴で表彰してやりたい。爺さんの世話をしてくれたこと にもどんなに感謝しているかを。わしは、新婚旅行の出発を柱の影から見送る。旅行から帰ったら、必ず、仏壇とお墓に参るように。それだけあんたに伝えて欲 しい」

 「ある日、娘のいた部屋に入った。飾られていた結納品も片付けられ、もの凄い寂しさに襲われました。でも、自分が嫁いできた時のことを思い出し、愛する人との幸せを願い祈りました」

 そんなご夫婦の思いを託された私。披露宴をお通夜にしてしまったことも事実だが、「いい嫁が来てくれた」と泣かれた新郎のお婆ちゃんもこの世におられない。

 何とかと探し求めた、お好きだった「桃」。それを供えることが出来ずに心残りですが、 おじさん、思い出を有り難う。明日、私が司会を担当します。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
携帯で下のQRコードをスキャンするか
 または
携帯に下のURLを直接入力します。
URL http://m.hitorigoto.net