2003-01-02

蒲鉾の味   NO 302

正月が来る度に思い出す、忘れられない葬儀がある。

 電話があったのは、年末の29日。慌しい口振りで「近所に分からんように、内緒で来てくれ」。

 相手さんは大きな商店。野菜、魚、乾物など正月用の食品が店頭に並べられ、多くの買い物客でごった返しているが、それだけで事情を察することが出来るだろう。

通夜や葬儀となれば店を閉めなければならず、仕入れた生鮮商品が大変なことになるということだ。

 喪主となる社長の顔を知っていたが、さすがに大阪商人、次々にお客さんを捌く目が血走っている。

 しばらくすると私に気付き、奥の事務所にと、目で合図を送ってこられた。

 お母さんが自宅で亡くなられたという葬儀。その打ち合わせの冒頭で飛び出したのが日程で、通例なら30日に通夜、31日に葬儀ということになるが、1月1日に通夜、1月2日の午後1時から2時という決定が下された。

 「それまでは、どんなことがあっても知られたくない。親不孝と思われるかも知れないが、母親もきっと分かってくれる筈」

 社長は、そんな思いに併せ、「1月31日、紅白歌合戦の終盤の頃に亡くなったというストーリーで頼むわ」とおっしゃった。

 そのシナリオ構成には、臨終を看取られた医師まで巻き込まれていた。

死亡届での死亡日時は正しく記載され、表向きの部分では秘密のベールで包むという協力をすることになった。
 
 困る問題がお寺さん。枕経は深夜にスーツ姿でということになり、お経は小声で、鉦の音は禁止となってしまった。

 念には念をと、私が帰る際、大きな買い物袋を持たされることになったが、その中には、高価な蒲鉾がいっぱい入れられてあり、社長が「特別サービスや」と、ニコッと笑顔を見せられたが、買収されたような思いを抱く経験でもあった。

 その葬儀は、確かに完全犯罪?のように済んだかに見えた。しかし、葬儀の終了後、それを暴露した人物がいたのである。

 犯人は、喪主である社長自身。精進揚げの席の挨拶で、自分が商売人であるとの自慢話がエスカレート。ばれてしまったのである。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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