2002-07-05

不思議な体験    NO 126

怪談が歓迎される時期には少し早いが、今日は、10数年前に私が体験した不思議な出来事をお話します。
 
 事務所の机に座り、外を行き交う車や人を見ながら、3時間後に行なわれる葬儀のナレーションの組み立てを考えていた。

 そんな時、衣姿のお寺様が自転車で通り過ぎるお姿が見えた。
そのご住職は、この日の葬儀の会場となっているお寺のご長老で、現在、ご隠居様。
一ヶ月前ぐらいからお身体のご不調で、他府県にある病院にご入院をされていると伺っていた。

 温厚でやさしいお人柄に、社員の間では「管長さん」とのニックネームが贈られ、ほのぼのとされた雰囲気から親しみ易く、多くの方々の人望を集めておられた。

 自転車で走るお姿を目にして、<よかった、よくなられたんだ>と思い、事務所内にいたスタッフの数人に、「今、管長さんがお通りになったぞ」と声を掛け、続いて「今日のご導師は、管長さんか? それとも現ご住職さんか?」と確認をしていた。

 管長さんがおられる以上、ご導師をおつとめならることは確実で、内密の話で恐縮だが、お布施の考慮にも関係してくることになる。

「現ご住職がおつとめになると聞いています」 それが、社員の答えだった。

 自転車に乗っておられる現実を見れば、これは、不思議なこと。ご退院されて自転車ということになれば<ご導師をされない筈はない>。それが私の疑問となった。

 やがて、葬儀の始まる時間が迫り、そのお寺様へ着いて10分ぐらい経った頃、お寺の前に寝台自動車が横付けされた。

 私達にとって、寝台自動車のイメージは強く、一般の皆様がライトバンと見過ごしてしまわれるようなことはなく、高速道路ですれ違っても敏感に解るぐらいなのです。

 そんな車が目の前に停まった。このお寺様で次の葬儀の依頼は入っていない。しかし、車内には「おやすみ」されている雰囲気があり、ご遺体であることは確実のようだ。

 すぐに運転手が降りて来られたが、その人物は、葬儀が行われている光景を目にして怪訝そうな態度。会葬者がぼつぼつと来られる状況ではお棺の到着でも珍しく、当たり前の驚きであろう。

 低次元な野次馬根性が起き、ふと、ナンバープレートを確認した時、私の背筋が一瞬にして凍りついた。

 <まさか> 寝台自動車のプレートには、他府県ナンバーが表記されている。

 そんな時、今日のご導師をつとめられる現ご住職がお出ましになり、私を見つけると近づいて来られ、生前の交誼に対する鄭重な御礼に続いてご葬儀の依頼を承ることになった。

「ご遷化は、何時であられましたか?」
 
 不謹慎だが、私が、どうしても確かめておきたかったことはご理解いただける筈。

 教えてくださったご遷化された時間、それは、私が自転車に乗られるお姿を目撃した時間と同じであった。                    合 掌
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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