2016-01-12

命の伝達  NO 4433

しなの鉄道 ろくもん今日の「独り言」も手抜きみたいになるが、「幸せ列車」の管理人さんのご厚意で紹介いただいている10年前の今日の「独り言」の再掲で、テーマは「命の伝達」だった。


家族の会話で何度か耳にした「100歳まで生きそう」という「ひい婆ちゃん」が亡くなったのは年末、実家の近くにある病院での出来事だった。

少し前にも両親が「100になったら県知事さんからお祝いがあるそうだ」なんて話していたが、満年齢で98歳と数ヶ月、<もうちょっとだったのに>という思いがした。

私は、小学校4年生。過去に「ひい婆ちゃん」とは3回会っただけ。「ひい爺ちゃん」の写真が飾られた仏壇に供えられていたお菓子を貰ったこと、そして3回ともお小遣いを貰ったことだけを覚えている。

私が居間でテレビを観ていると、父と母がお葬式に行くか行かないかで話し合っている。ふと見ると母が泣いており、父がそれを慰めている。そう「ひい婆ちゃん」は母方側に当たる人だった。

正直言って、私に悲しい気持ちは生まれておらず、ただ母の涙を見て悲しくなっていた。

やがて、父が「行こう」と言った。一瞬、母の表情が変わり私を見つめた。それは「この子どうする?」という無言の問い掛け。父がすぐに「冬休み中でよかったじゃないか」と言ってくれた。

そんなことから私達家族3人は「ひい婆ちゃん」の家に車で向かうことになった。片道4時間も掛かる遠いところ、高速道路をドライブして旅行に行くような感じで後部座席で景色を眺めていると、両親は、会うであろう親戚の人達のことを話題にし、宿泊するホテルのことも考えないといけないなと言っていた。

お通夜は、実家から車で15分ほどの葬儀式場だった。「もうちょっとで100じゃったのに」という会話が多い。父と母は緊張気味に親戚の人達と挨拶を交わしているが、私には誰が誰かなんてさっぱり分からず、母が手招きする度に側に行き、ペコッと頭を下げることを繰り返すばかり。

お坊さんのお経があって、両親と一緒に焼香というものを初めて体験。皆がそうしていたので真似ただけだが、煙たかったことが印象に残っている。

その日の夜は近くにあるホテルに泊まったが、私が寝たのは臨時に持ち込まれたエキストラベッド。でも、3人で寝るなんて久し振りのことで嬉しく、なかなか寝付けず興奮気味。親戚の人達のことを話し合っている両親の会話が続いていた。

次の日、朝から冷たい雨が降っていた。式場に着くと黒い服の人達がいっぱい。それは、葬式の始まる前だったが、昨夜と全く異なる賑やかな雰囲気。想像していたイメージとは随分違う環境の中に座っていた。

そんな式場が静かになったのは、お坊さんの姿が見えてから。お葬式って初めての体験、どんなことが行われるのかさっぱり知らなかったが、入り口の看板から1時間で終わるらしいことだけは分かっていた。

司会をする人は女の人、やさしい声だと思った。3人のお坊さんのお経が始まり、皆が下を見つめて座っている。やがて真ん中のお坊さんが立ち上がり、何か尻尾みたいなものを振り回し、これまでと違う雰囲気のお経が始まった。

しばらくして、びっくりした。お坊さんが「カーッ」と大声で怒鳴られたからだ。それは、誰かが叱られたのかと思ったが、そうではなかった。座られたら司会者の人が引導が終わったとか言っていたから。

お坊さん達が退場して行ってから挨拶があり、それからお別れが始まった。長いこと見なかった「ひい婆ちゃん」が箱の中で目を閉じている姿を目にした。私も両親と一緒に花を入れたが、父が3本、母がいっぱい手にしていたのを覚えている。

皆がハンカチを目に当て泣いている。父も母もそうだ。でも、私に涙は出て来ない。しばらくしてから蓋が閉められた。そして司会の人から「は~い、孫と曾孫さん集合」と言われ、両親に押し出されるようにして前へ、そして皆で並んだ。

司会者の人のお話が始まった。やさしく語り掛けるように、私達が「ひい婆ちゃん」から命を貰ったと言った。「命を大切にね」とも言われた。その瞬間、私は無性に悲しくなって泣いてしまった。そして、「ひい婆ちゃん」に有り難うと言った。

お葬式が終わった後、いっぱい並ぶお膳の前に座ってご馳走を食べた。両親のに比べると子供用なので仕方なかったが、何度か行った和風レストランのお子様ランチよりましだった。

帰りの車の中、母から私が「泣くとは思わなかったよ」と言われ、何も答えなかった私だが、今、人が死を迎えることが悲しいこと、そして命ということを学んだ思いがして「ひい婆ちゃん」に有り難うと感謝をしている。

今日の写真は「しなの鉄道」で運転されている観光列車「ろくもん」の3号車の車内イメージ。全国で食事やスイーツが提供される観光列車が増えたが、この列車も地元の食材に拘った食事が出される。
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