2003-06-10

夕景に思いを募らせ     NO 454

出国手続きを済ませてすぐ、携帯電話が鳴っている。

 「大変です。社長をご指名のお客様です」

 それは、私の知る立派なお医者様のお母様のご不幸。故人は100歳であられた。

 不在中はスタッフで対応をと頼んであったが、世の中とは皮肉なもの。こんな時に限って私自身が担当しなければならないお客様がある。

 出発までの約1時間、悩みに悩んだが、申し訳ない気持ちに襲われながら搭乗した。

 <とにかく、社長が担当できないのだから、その埋め合わせを>

 そんな思いで一致したスタッフは、まずは祭壇設営に特別な配慮をする行動を進めた。

 花の種類、デザイン、イメージなど、それらは100歳の方のご終焉の儀式を「飾る」というコンセプトにつながったようで、ご遺族からご満足のお声を頂戴することが出来たそうだ。

 喪主をつとめられた先生とは、1週間ほど前、ある葬儀のご弔問に来られた際にお会いした。その時にお掛けくださった「ご苦労さん」とお言葉を思い出すと辛くなる。

 不思議な巡り会わせというのだろうか、私が結婚式に出席しなければならない時に限ってそんな葬儀が入ってくる。

 数年前、出張の帰路、深夜の山陽自動車道のサービスエリアでコーヒーを買っていた時に鳴った携帯電話。

 「母が病院で亡くなった。すべてを頼むよ」

  それは学生時代の友人で、上場会社の社長をしている人物。それから3日後になる葬儀の日は私の娘の結婚式。通夜の司会を担当して事情を説明した時、「娘さ んの結婚式に行くべきだ」と言ってくれた彼の心情が嬉しかったが、複雑な思いに捉われ、<今頃、開式だ。もう焼香が始まる時間だ>と心配しながら、世界遺 産となっている京都の神社で結婚式をしていた思い出も懐かしい。

 私の仕事に「来る何月何日」という手帳のスケジュールは恐怖のページ。その日を迎えるまでの毎日、掛かってくる電話に恐怖感を抱くもの。

 こんな日々を過ごしていたら病気になって当たり前。神経性の高血圧や十二指腸潰瘍という持病が勲章にもなってくる。

 太平洋の南の島で過ごしたひととき、それは「人生、そればかりではないだろう」ということを教えて貰ったようにも思える。

 美しい夕日が沈む光景を見ながら、故人を送る自身が人生黄昏を夕景に感じて仕方がなかったが、「陽はまたのぼるが、人間は?」と思いながら去就に耽ったひとときでもあった。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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