2002-09-28

札幌での思い出    NO 209

数年前の冬のある日の夕刻、厳寒の千歳空港に降り立った。
地下のJRの快速に乗車し、札幌駅に向かっていた時、会社から携帯電話が鳴った。スケジュールを知っている筈なのに不思議だと思いながら、何か胸騒ぎが生まれた。

 車内では抵抗があるし引き返すこともあるところから、次の停車駅で降り、暖房された駅構内の公衆電話で会社に電話を入れた。

 案の定、緊急を伴う内容で、私にしか対応不可能なお客様のご不幸ということだった。
「社長は、今、札幌へ出張中です」では対応出来ず、今晩中にどうしても会わせて欲しいとのこと。

 皮肉な出来事に苦渋の選択を強いられるということだが、答えはすぐに決まっていた。旅費が無駄にはなるが帰阪するということである。

 すぐに札幌のホテルに電話を入れ、事情を説明し、数日後に改めて参上することを伝え、千歳空港に引き返し、大阪行きの最終便に乗った。

 それから4日後、私は、また千歳空港に降り立った。次の日が友引にあたり、今回は目的が達成出来るという思いもあった。

 札幌市内のホテルとの打ち合わせがスムーズに終わり、少し時間に余裕が生まれ、ふと、札幌近郊に在する協会メンバーの会社を訪問する気になり、電話を入れた。

 利用する交通機関はJR札沼線。札幌駅から各駅停車で12番目の駅に向かうことにし、2両連結の古風なディーゼルカーに乗った。

 外は少し吹雪気味。車窓のガラスの外は凍りつき、内側の曇りと併せて全く見えない状況だが、シートの下に設置された暖房が強烈で、何時の間にかうとうとしていた。

 通り過ぎてしまったら大変だという思いを抱いていたが、それからしばらくしてハッと目を覚ました時、列車は何処かの駅に停車していた。

 ガラスの曇りを手で拭い、外を見る。パッと目に入ったのは線路を跨ぐブリッジ。そこに目的の駅の文字が目に入り、急いで飛び降りる。瞬間に扉が閉まり列車が発車した。

 改札口を出る。ふと、駅名を見ると目的の駅ではない。どうやら4駅ほど手前で下車してしまったようだ。時刻表を見ると30分ほど待たなければならない。どうしてこんな誤りがと、さっき目に入ったブリッジの看板を確かめて見た。

 そこには「**駅方面」とあり、目的駅に行く番線の表示となっていた。

 猛烈な寒さ。駅の外は雪より凍りの世界。私は、駅員さんのアドバイスからタクシーで行くことにした。

 外は、少し風が出てきた。乗ったタクシーが石狩川を渡ろうとした時、運転手さんがおかしなことを言い出した。「もう1時間もしたら、帰りは、この橋を渡ることが出来ないかも知れませんよ」

 その理由は、風の影響に生まれるパウダースノーの舞い上がりで、自分の車のボンネットさえも見えない状況もあるそうで、<帰られなかったら大変だ>と、初めて体験しそうな自然の猛威に恐怖感を抱いてしまった。

 訪問先に着いた。用意をくださった食事もそこそこに、用件だけを済ませ、待たせてあったタクシーに飛び乗り、札幌駅に帰ってきてしまった私。

 相手側の社長さんご夫婦に、大きな「借り」が生まれた出来事であった。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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