2003-02-25

素晴らしいお婆ちゃん    NO 355

相変わらず声の調子がおかしい。まだ、風邪の兆候を引きずっているようだ。

 早く治さねばと思いながら事務所に行くと、友引で休もうと思っていた明日、私が担当しなければならない葬儀が入っていた。

 故人は、お医者様のお母様。最近、不思議なほどにお医者様に関係する葬儀が多い。

  スタッフから入手した情報によると、メモリアルボードや追憶ビデオも完成しており、今夜の通夜のナレーターもつとめなければならないということだが、今日 の音響システムでは微妙な調整が利かず、まずい声となるだけではなく、体力的に腹式呼吸での喋りに差し支えがあるので難渋している。

 時間がある内にナレーション原稿の創作をと考え、故人の取材ノートに目を通しながら出来上がっていたご遺影を拝見すると、見るからにハイカラでお洒落な感じのするお婆ちゃん。
 
 座右の銘は「身だしなみ」だそうで、昨日、美容院に行かれて美しい髪形をされていたということを、納棺を担当したスタッフから耳にした。

 また、ご好物であった和菓子がお仏壇に供えられてあり、若くしてご伴侶を亡くされ、この6月に予定されていた33回忌をおつとめになることが出来ないのがお心残りだろうが、霊山浄土で再会を果たされ、懐かしく昔話をなさっておられるように思える。

 この方が青春時代を過ごされたのは、昭和の初め。兵庫県の名門女学校時代に水泳がお好きで、須磨海岸で遠泳されていたとのこと。この当時の須磨浦海岸は、さぞかし美しい自然の海岸であったことだろうと想像する。
 
 お婆ちゃんには4男1女のお子様があり、今では9人のお孫様と4人の曾孫様の存在がある。お孫さん達が感謝の心を手紙に託され、お柩の中に納められたそうだが、明日の葬儀は「命の伝達式」という意義を込めたいと思っている。

 『先生、風邪で調子が悪いのです。注射を1本お願い出来ませんでしょうか?』

 そんな思いを抱いているが、こんな場合は不謹慎。数日前に東京で貰ってきたクスリを飲んで、何とか頑張ってみよう。

 この葬儀のご宗教は仏教だが、1年に1回ぐらいしか遭遇しないご宗派。開式より引導作法を終えられるまでの時間が長く、会葬者が多いとの予測から、少し開式時間を早めなければならないだろう。

 お好きだった色は紫。ご遺影の元になったお写真はご旅行先の倉敷で撮影されたもの。

 茶道、華道、フランス刺繍、謡をご趣味とされた故人。クラシック音楽をこよなく愛され、和服が似合う純日本的な女性であられた。

 さて、お通夜の読経が終わり、お上人がご法話を始められたが、檀家さん達で『あの方のような生き方をしないと』と尊敬される存在であられたそうで、「お婆ちゃんが檀家さんであったことを誇りに思っています」と結ばれた。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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