2003-05-03

自宅への訪問者    NO 418

ある知人を介して若い男性と自宅で会った。彼は有名な専門学校に在職中で、卒業に向けての就職活動でのえにしだったが、ホテルマンに憧れていた。

 この専門学校の歴史と伝統はあるが、厳しいホテル業界の現況と産業の将来性というところから葬祭業に着目し、「ライフステージ」と言うのだろうか、新しいホテルサービスのコースを選択し、プロデューサーということにも興味を抱いている。

 ライフステージとは造語のようだが、人生の通過儀礼である葬祭サービスの意味を含め、昨今に求められて来ているホテルでの社葬、偲ぶ会、お別れ会、法要などの専門家を養成しているとのこと。

 彼は、これまで学んだことに自信を抱いていた。そして、はっきり言わせて貰うが、我々葬祭業を馬鹿にしている姿勢があった。

 初対面の場合、相手の話を拝聴することから始める私は、しばらく彼の熱弁を聞いていたが、アメリカナイズした立派な自己主張を途中で遮ることにした。

 「葬祭業界は保守的で遅れています。もっとホテルサービスの勉強をするべきですよ」

 そんな発言にカチンときたが、知人の存在が頭に浮かび、感情を抑えながら説教をスタートした。

 「人生終焉の仕事で最も大切なことは何だと思いますか? きっと学校で教えられている筈ですが、残念にもあなたからは伝わってきません」

 彼の返答はなく、言葉を続ける。

  「それは、『礼儀』と『節度』、つまり礼節なのです。学問と技術だけでホテルマンや葬祭サービスの仕事が出来ると思ったら大きな誤りです。制服や肩書きは 人を変えるということもありますが、それは単に自身の立場を認識しているに過ぎず、かたちや仕種に変化が生じても本物ではありません。お客様は『人』。 サービスというものは『人』の内心がすべてなのです。人生がそれぞれ異なるように、悲しみというものも異なり、求められるもの、満足にいたるものなどすべ てが異なるものです」

 ホテルの大切なものはサービス提供。その背景にステータスとホスピタリティがあるが、彼が「ホスピタリティ」とい う言葉を出した時、私は瞬時に「葬祭業の方がホテルよりもホスピタリティが求められるよ」と制し、「葬祭業は、ホテルマン以上の資質が求められるプロの仕 事だ」と教えた。

 そして、<こんなタイプにはこれしかない>と、私が編集したホテル葬の実際映像を見せた。

 彼の目の色が変わる。このビデオには様々なホテルでの私の仕事が約40分入っている。
彼は、じっと見入っている。私はそれこそ礼節を欠くが、冷蔵庫から缶ビールを取り出し飲み始めた。

 酒に弱い私、顔がほんのり赤くなってきたと思われる頃、ビデオが終わった。

 彼は、しばらく声を出さなかった。興奮、衝撃という言葉は当て嵌まらない。世間で言われるカルチャーショックでもない不思議な現象。

 やがて発せられた「こんな世界が? 感動しました」だけの言葉。彼の目には透明の涙が光っている。私が<感性はある>と、ほっとした瞬間であった。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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