2002-11-12

大 阪 弁     番外編    NO 254

これまでに多くの司会者達を指導してきた。ブライダル産業の変化を背景に、ホテルや結婚式場専属の司会者の転換も増加の一途。司会者団体のセミナー講師の依頼も多い。

 そんな中で、印象に残っている女性司会者が30人ぐらい存在するが、それぞれを育てる際、もっとも力説したのは意識改革で、「葬儀の司会は、『披露宴の司会』ではなく『結婚式の司会』であり、ブライダルの世界以上に責任が重い」ということであった。

 九州のある女性司会者の教育に手を焼いたことが懐かしい。彼女は、ナレーションに興味を抱き、様々なテクニックを教えたが、方言イントネーションからの脱却が難しく、「遺族から喜ばれています」と、変に自信過剰になって抵抗感を抱いてしまったのである。

 ある時、「遺族の大半は地元の人。会葬者の大半も地元の人」という意識改革を求め、「他府県から参列される方々にも納得いただける話術を学ぶべきだ」と教え、彼女のレベルには「説得力が欠如している」と方向修正を強く求めた。

 彼女は、涙を流して反論してきた。それは、きっと悔し涙であった筈。しかし、このままでは、彼女が一流の世界に到達することは不可能。私は、続けて次のようなきつい言葉を浴びせた。

「この地域にもテレビ放送がある。ニュース番組も放映されている。NHKのアナウンサーのイントネーションも耳にされている筈だ。彼らとあなたのイントネーションの違いは、参列者のすべてが感じている筈。それを理解できないなら司会の仕事を辞めるべきだ」

 そう言った時、彼女の涙の奥にある瞳がキリッと輝き、「間違っていました」と素直に頭を下げた。

 彼女の努力がそこから始まった。半年ぐらい経った頃、「明日、大阪に参ります。テストしてください」という電話があった。

 次の日、私の事務所で彼女が持ってきたシナリオを本番さながらに読み上げてくれたが、見違えるような進歩を遂げており、その苦労と尽力を認めて褒めた時、前とは異なる色の涙を浮かべていた。

 私は、そんな彼女にプレゼントを考えた。それは、同じシナリオでもBGMによって言葉の表現が変化するという体感で、私の秘蔵の音楽4曲での研修をさせてみた。

 それは、まだ彼女のレベルでは無理な技術トーク。自分でそれを感じた彼女は、「3ヶ月ください。挑戦してみます」と意欲に燃える嬉しい言葉を返してきた。

 あれから十数年。彼女は、今も葬儀の司会を担当しているが、今春に会った時、次のような「独り言」らしきことを言っていた。

「近付いただろうと思ってお会いすると、また遠い世界のレベルを感じてしまいます。司会って、日々に変化しているのですね。先生もどんどん進化されているんだ」

 弊社の女性社員を司会者として教育しているが、やっと世の中に通用する時期になって、「寿退社」と「おめでた退社」の寂しさは、私にしか分からない涙の物語である。

 全国の司会者を個人的に教育することも多いが、関西弁と東北弁には苦労が多く、受講者自身が苦労されているようだ。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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