2002-09-01

再会に感謝    NO 182

企業のトップや重職にある役員が逝去されると、社葬が行なわれるのが一般的。そんな時、私がプロデュースの基本に考えるのが「社是」や「企業理念」であるし、ご本人の抱かれていた信念や人生観も知りたいところだ。

 創業者の場合、役員変更をされ、その後の企業戦略が大きく変化したケースも多く見てきたが、ワンマン経営者と呼ばれていた企業では、時代の潮流から社是や理念が変わる率が高いようだ。

 10数年前に担当したある社葬。創業者が「企業というもの利益なくして存在価値なし」という理念で突っ走り、「社員に多くの給料や賞与を与えることが経営者の責任である」との信念を抱いておられた。

 後継者となった社長は、社葬が終了すると同時にその企業理念を全面的に変更し、社会に役立つ企業という文化の重視を全面に押し出し、多くの役員や古参の社員の大きな反発を買っていた。

 健康に関する日用品の製造会社であったその会社は、その変革から次々に社員が去り、やがて半分以下にまで減ってしまい、新しい社員を迎えることに力を注いだ。

 新社長の考えには「時代が変わる」との確信があり、それまでに一致団結した社風が重要と判断し、製造機械の入れ替え、仕入れ材料の厳選、社員の教育研修に膨大な投資を行い、お陰で10年間は赤字経営となってしまった。

 そんな中、世の中の流れが変わってきた。「今だ」と小さな船の帆を張る行動に出ると、潮時もあったのだろうが、船は猛スピードで大海にまで乗り出してしまうことになった。

 その企業には、今、素晴らしい社員の存在があり、急速な発展を遂げているが、社長は船の大きさを変えようとはしなかった。「今の弊社はこれでいい。台風の中でも乗り出せる大きな船になろう」と、航海士や乗組員となる中堅社員の教育に、また膨大な経費を掛ける行動に出た。

 それから3年後、競合する大手企業のトップが、社員訓示でその会社の存在について、次のような危機感を吐露した。

「数 年で逆転されるだろう。なぜなら知恵と技術を持った『人』が最大の武器であり、残念ながら、この会社に育った『職人プロ』が創る製品には勝つことが出来な い。人を育てるには時間が掛かる。『人材』から『人財』になるには大変なことだが、『人財』は、また『人財』を育てるという能力を持っている。そこが最大 の脅威である。弊社には、『人材』よりも『人罪』が多いのが現状だ。弊社が勝ってきたのは宣伝広報で、それらは情報社会の中で、消費者の動向を左右するパ ワーが落ちてきている」

 最近の社会を賑わす大手企業のモラル欠落。『商道』が『正道』から外れた時、取り返しのつかない教訓となっているように思えるし、知識優先社会の中で知恵の活用の重要性に気付く経営者が増えつつあることも事実だ。

 上記は、その変革を成し遂げた社長に伺った話だが、偶然に出会った小料理屋さんでのひとときが、私の意識改革につながることになったのは当然である。
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