2003-05-13

雨のシーズンを前に     NO 428

今日、奄美地方が梅雨入りしたと気象庁が伝えていた。また、2ヶ月ほど、うっとうしい季節だ。

 我々葬祭業は、雨には泣かされる。備品が濡れる、参列者が負傷されるパーセンテージが高くなるというような心配もあるが、私が最も嫌うことは参列者に落ち着きがなくなることである。

 「焼香はまだか?」「早くしろ」そんな心情も生まれてしまうのも仕方がないが、故人や遺族に気の毒で申し訳ない自然気象との遭遇となる。

 ホテルや文化ホール、また大規模な寺院や葬祭式場などで、すべての参列者が式場内に収まるところはいいが、テント設営を行い、大半の参列者が式場の外というケースは本当に辛いもの。

 昔、1時間の葬儀の司会を担当していた時、青空が急変して暗くなり、強い夕立が降ってきたことがあった。

 空の様子で夕立が来るのは覚悟したがどうにもならない。それは、ちょうど代表者の焼香の時。常備してある大型のお寺様用の傘が数本あったが、そんなもので間に合うことなんて不可能。

 「折悪しく強い夕立に見舞われました。しばらく、雨を凌げる場所でご待機ください」

 そう言うしかない状態だった。

 夕立は、それから5分ほどで嘘のように上がったが、その時の体験から、傘を数百本仕入れ、会葬者の予定人数分を式場に持っていくサービスを始めた。

 空が暗くなってきた。ひょっとして雨が。そんな状況は司会者の心を動揺させ、よい司会が出来なくなる。そんなことの解決を目的に傘を用意しただけでも心の余裕が生まれたものである。

 ある時、ご出棺の5分ぐらい前に雨が降ってきた。見送りをされる方が100人以上おられる。すぐに女性スタッフが傘を配る。皆さんが「助かったわ」と感謝のお言葉を掛けてくださる。

 そして、ご出棺の時間がやってきた。雨は一向に止む気配はない。霊柩車を見送られた方々が傘を手にされ、<さてどうしたものか?>という表情をされている。

 「この雨は止みそうにありません。ご遠方にお帰りの皆様もいらっしゃいましょう。傘は、ご遠慮なくお持ち帰りください」

 マイクでそんなアナウンスをすると、全員が会釈をしながら帰って行かれた。

 数日後、精算に参上すると、そのサービスが何より嬉しかったとご遺族に言われ喜んで帰社すると、また嬉しい事実が報告されていた。

 2本の傘が宅配で届けられている。そして「何よりのサービスでした。これからも続けていただくために」とメッセージが添えられてあった。

 今、その頃からすると傘が信じられないぐらい安価になっている。どうやら中国製のもののようだが、急場しのぎなら十分に間に合うもの。これからも続けていくつもりだ。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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