2018-10-28

NO 8353 短編小説 あの頃 ⑥

難しかった ホールドラちゃんもあるゴルフ場のメンバーであった。その時の会員権相場では1200万円程度だったが、それでも「1400万円で売ってください」という会員権業者からの葉書が何通も届いており、社会ではゴルフをしない人達も投機目的で会員権を入手する潮流が生まれ、特に信頼出来る大手企業が母体となる新規ゴルフ場の縁故会員は人気が高く、銀行を通じて入手を依頼するケースも増えていた。

投機目的で一般の人が入会することになった背景には、新聞に会員権相場の広告が掲載されることが目立って増え、上下を表す矢印に興味を抱いた人が多かったからで、500万円で入会した会員権が7000万円になったこともあり、社会ではまさに異常な状況を迎えていたとも言えるだろう。

スポーツ新聞には大手のゴルフ場運営会社がアメリカ、ハワイ、カナダ、イギリスなどのゴルフ場を買収したニュースも報じられるようになり、イギリスの名門ゴルフ場を買収し際には地元だけではなくイギリス国内から批判的な対象になっていた事実もあった。

テレビのゴルフ番組も増え視聴率が安定しているらしく、ボール、クラブ、シューズなどのCMが流されていた。

ゴム製のボールから脱却して次々に新しいボールが登場し、少し硬いので当時主流だったパーシモンのヘッドを痛める問題も発生していた。

ゴルフボールに関するルール改正があり、スモールボールが禁止され、ラージボールに統一されたが、何か風圧の影響で飛距離が落ちるような気がするというゴルファーの声もあった。

ゴルフのラウンドにはキャディーさんが不可欠だが、一般的なコースでは一組に一人だが、ゴルフ場によっては二人に一人や一人に一人というところもあった。

一人に一人ということになればキャディーさんの人件費となる金額を一人で負担しなければならず、それを「キャディーフィー」という言葉で呼ばれていた。

そのようにゴルフ場も様々で、メンバー同伴でなければラウンド出来ないところもあるし、メンバーの紹介だけで行けるところもある一方で、誰でもエントリーが出来るパブリックのゴルフ場も存在していたが、当時のゴルフ人気は想像を絶するもので、半年前に申し込みと言う条件のパブリックコースの申し込みが年末の新幹線のチケットのように瞬時に取れなくなるほど人気で、メンバーコースでも1ヵ月前の申し込み規定で電話をしたら、すでに10組待ちと言うことも少なくなかった。

そんな中で、悪質なゴルフ場が話題になっていた。それはメンバーがビジター3人を伴った一組で申し込んだらキャンセル待ちで、10分後に仲間が変わって「ビジターばかり4人ですが」と言うとエントリーが出来たという噂で、それはメンバーよりビジターの方が売り上げアップになるからで、悪質なゴルフ場の常套テクニックだった。

その日も過日に会った会計士がドラちゃんの店に来ており、ゴルフの会員権について面白い裏話を教えてくれた。

「ゴルフ場の会員権には『株式』『社団法人』「『預託金』の三種類があり、新聞などの広告に出て来る売買コースの大半は預託金コースなんだけど、オープン当時に300万円だったものに1000万円の相場が付いていることもあるが、会員権の証券を入手した時に額面を確認した方がいいよ」

需要と供給のバランスで相場が成り立つものだが、同じコースでも縁故、第一次、第二次、第三次、オープン時などで証券の額面が異なる事実があるということで、会計士は続いて自身が入会しているゴルフ倶楽部の証券について話し始めた。

「私は今のコースが気に入って入会したのだけど、厳しい審査の他にメンバー二人の推薦が必要で、入会していた友人達に頼んで印鑑証明まで依頼したが、当時1500万円の相場になっていて、その大半の額面が700万円だったのでゴルフ倶楽部の役員と直接交渉しましてね、2000万円出すから額面を2000万円にして欲しいと言ったらその通りに対応してくれたのです」

現在、会計士が入会しているゴルフ倶楽部の相場は倍になって4000万円だそうだが、取引の世界で相場が成立していても、入手した額面は退会時にゴルフ倶楽部に返すと額面の金額しか戻って来ないという常識があり、会計士の話では、入手時と手放した時の差額が収益なら税務申告義務が生じるし、損益が発生したら確定申告で処理が可能と言うことだったが、会員権業者に売り渡した場合の損金は認められるが、ゴルフ倶楽部に退会時に返却しても損金処理は出来ないと知ってそこにいた全員が驚くことになった。

それを聞いていた座敷席の高齢の人物が立ち上がってカウンター席にやって来た。彼は数年前まで司法書士をやっていたそうで、面白い裏話を教えてくれた。

「ゴルフ会員権の募集だけどね。最初から詐欺目的で募集をしてもね、入会者の個人情報をきちんと残していたら詐欺にはならないケースもあるから困るのよね」

住所、氏名、電話番号、勤務先などを名簿として残しておくことで「何時かオープンする」ことになって詐欺にならないというシナリオだが、こんな募集の被害者になったら最悪だが、すでに多くの被害者が社会に存在していたのも現実でスポーツ新聞の記事になることも多かった。

司法書士が続けて自身が入会しているゴルフ倶楽部について語り始めたが、それは将来に何か起きるのではと思うイメージを与える雰囲気が感じられた。  続く
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