2018-10-24

NO 8349  短編小説 あの頃 ②

作州武蔵カントリー倶楽部世はバブル時代と呼ばれていた。銀行の定期預金の金利も1年物で8%であり、一戸建ての住宅をローンで建てた返済金利も高かったが、水野のような庶民が理解出来なかったのはゴルフ場のメンバーとして入会する会員権の金額で、4億、3億、2億というコースもあり、数百万円のコースなら電話帳のような厚さの会員名簿になるという噂も流れ、中には会員名簿を発行していないところも少なくなかった。

水野の会社の取引先の中に若い人物が社長に就任している会社があった、その社長は韓国人の二世金原で、後継者として現在の立場になったものだが、吉村とはゴルフを通じて交流があり、2人は俗に言われる「シングル・ハンデ」だった。

ある日、水野は金原に誘われて定時を終えてから会社の近くの居酒屋へ行くことになった。
その居酒屋の主人萬田は吉村とのバンドの仲間でドラムを担当しており、店の名前も「ドラちゃん」だったが、もちろん水野も仲間だったので何度も訪れている店だった。

山手線の最寄り駅の近くにある店で6時に待ち合わせていたが、水野が5分前に行くと金村はすでにカウンターに座ってゴルフ仲間でもあるドラちゃんとゴルフ談義をしていた。

生ビールで乾杯をしてから金村の話になったが、彼は近々にゴルフ場の会員として入会することを知った。国内の韓国人財界のシンボルになっているゴルフ倶楽部で、母体は韓国系の金融機関だった。

「長い取引もあり結構信用されていてね、3000前万円の融資を受けて入会するのだけど、銀行側の条件があってね」

金村はその契約の締結が如何にも嬉しそうな表情を見せていたが、住宅ローンを返済している水野にはゴルフ場の会員権は別世界の話のように思え、興味を抱いた銀行の条件に付いて聞いてみた。

「融資の同額を借り入れてね、それを定期預金にするというものでね、入会者はそれで入っている人が多いそうなんだ」

銀行の立場としたら、預かる定期預金の額と貸付金の額が増えるのだから「外見」は健全のようだが、果たして大丈夫なのだろうかと言う疑問が水野の心の中に生まれていた。

そこで吉村のことが話題になった。吉村が入会しているゴルフ場は関東でも超一流コースと称され、厳しい入会条件があるが、オヤジさんの推薦で入会が認められていた。

「吉村さんのゴルフ場の会員権は2億円以上しているけど、金さえ払えば誰でもという訳には行かなくてね、あそこのメンバーはゴルフの世界ではトップクラスのステータスとなっているのだけどね、僕の入会するクラブも我々の世界では何よりのステータスなのだよ」

未だコースでラウンドしたことのない水野だが、ゴルフ倶楽部に入会するのに数千万円や数億円という話が出て来て理解出来なかった。

「メンバーになったら何か特典がある訳?」

水野が素朴に感じた疑問を金村にぶつけてみたら、金村は自身がもうメンバーとして入会しているような得意げな口振りでジョッキを片手に話し始めた。

「ラウンドのエントリーが出来るし、月例競技にも出場出来る。理事長杯や倶楽部チャンピョン戦にも挑戦可能だし、何よりプレー料金が安くなる特典がある訳だ」

ゴルフ場によってはメンバー同伴しかプレー出来ないというところもあるし、メンバーの紹介だけでビジターがプレー出来るところもあるが、紹介の場合のビジターに関しては紹介者であるメンバーが責任を持つことになるのも当たり前の条件となっていた。

ドラちゃんが常連客から聞いた」というびっくりする話をしてくれた。

「お客さんの取引先が名古屋にあってね、メンバーだと言う名門コースでラウンドしたら支払いもメンバー一括になっていたそうだ」

祝日や日曜日にビジターがプレイすれば朝と昼の食事代を入れると4万円を超すコースもあったが、メンバーなら1万円と少しの料金となるのだからメリットがあることは事実である。   続く
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