2003-02-06
慣 習 NO 336
ある葬儀を担当した。ご伴侶を亡くされた60代の奥様、お人柄が滲み出る上品さが感じられた。
さて、葬儀の当日の朝、式場に行った担当スタッフから電話があった。「えらい事です」、それが第一声。
事情を訊ねてみると、彼らには初めて体験することで、驚愕するのも当然であった。
驚きの原因は、奥様のご装束。純白の和装を召されていたのである。
このしきたりは古くからあり、今でも伴侶を亡くされた奥様が「白」の衣装を喪服として身に着けられるところもあるが、大阪や東京などの大都市では極めて稀になっている。
「あなたに嫁いで来た時の「真っ白」気持ちであなたを送ります」という、貞節を誓う儀礼的表現と言われているが、これなどは典型的な日本人的な慣習であろう。
これまで1万数千名様の葬儀を担当してきた私だが、大阪の地でこの装束に出会ったのは6回だけ。もう、これから見ることはないだろうと思っている。
過去ログにあるが、「夫を亡くした妻は火葬場に随行してはならない」という慣習も存在し、今でも地方からやって来られた親戚の方から耳にすることがある。これらも「純白」と同じ「貞節を誓う」という儀礼の表現だと考えられる。
慣習とは「納得」を生む説得があることもある。
ある葬儀に、地方に在住される本家の檀那寺が大阪にやって来られた。もちろん葬儀のしきたりも異なるが、出棺をして火葬場に向かう車の葬列で、前もってお願いしたことがあった。
導師をつとめたお寺さん、「導」という文字に意味があるように、火葬場への道中は、導師が乗られた車が霊柩車の前を走行して先導する。
交通量の少ない地方なら可能だが、大都会でこのしきたりを遵守すると様々な問題も生じてくる。
狭い道路を走行する時のすれ違い。霊柩車なら多くの方々が優先させてくれるが、ハイヤーやタクシーでは譲られることはない。
5台、6台を伴って葬列を組む場合、警察官の在する交差点で信号が黄色になった時、最後尾を走行するマイクロバス。葬列ということで黄色信号を暗黙の内に多めに見てくださることも事実。
そんな都会の事情を説明し、ご納得のうえ、霊柩車の後ろに続いてご走行いただいたこともあった。
しかし、火葬場の入り口、そこでは入れ替わる打ち合わせをしていたのもちろんである。
葬祭業に従事する我等。地方独特の慣習やしきたり学んでおかなければ恥を掻く。そんなところに全国のメンバーが結集する日本トータライフ協会の存在が有り難い。