2018-10-31

NO 8357 短編小説 ⑨

好きだったホール「人格欠如が問題になってね。競技議員会とハンディキャップ委員会からゴーサインになったけど、エチケット委員会からストップが提起された訳」

会計士が入会しているゴルフ場の最寄りの高速道路のインターチェンジにはゴルフ場が密集しており、当時は料金所の現金支払いが当たり前で、日曜日や祝日の朝になると料金所で渋滞が始まり、それは本線にも1キロ以上も並ぶことが知られており、中には次のインターチェンジまで行って引き返して来る人も少なくなかったのだが、その議題に上がった人物の行動は多くのメンバーに目撃されていたこともあり、それが仇となって却下されてしまったものだった。

それはいったいどんな行動だったのだろうか。会計士は「反論不可だなあ」と呟いた。

対象者の問題になった行動が明かされた。料金所で本線まで渋滞する列の広報に並ばず、いつも本線とアプローチの分岐店まで走行して無理に割り込むもので、割り込まれたメンバー達の中でも有名になって広まっていたそうだ。

「エチケット委員会の委員長がね、『当クラブのシングルプレーヤーがそんな行動をしていると他クラブから指摘されたら恥ずかしい』と言ったそうで満場一致で却下されたそうなので我がクラブも中々のものだよ」

会計士はご機嫌そうにそう言うと、如何にも美味しそうに日本酒を飲んだ。

そこへ金村が入り口の扉を開けて姿を見せ、「皆さん、お揃いですね」とカウンター席の吉村の隣に座った。

席に座ると同時に生ビールを注文。出された物を一口飲むと「吉村さん、腹が立つことがあってね。聞いてくださいよ」と話し始めた。

「数日前、名門と言われているゴルフ場へ行った時のことなのですけど、大切な取引先の接待もあって私が担当することになって社長の車を拝借していったのだけど。クラブハウスの玄関でトランクから4人分のキャリーバッグを下したにも関わらず、運転して来た私に向かって玄関担当のスタッフから『運転手さんの控室はあちらです。クラブハウスには入れませんので』と言われたのですから」

それを聞いた全員が笑った。社長の車である高級車の運転手に勘違いされたということになる訳で、憤慨する金村に向かって吉村が「面白い出来事だ。笑える話だわ」と言ったので、店内がもう一度沸き上がった。

因みに社長の車と言うのはトヨタのセンチュリーだった。若い年齢の人物がオーナ―との考えがなかった「思い込み」がこんな失礼なやり取りに発展してしまったのだろうが、名門ゴルフ場と称されるクラブでは運転手専用のハウスも準備されており、飲食も用意されるところもあったが、少なくとも6時間程待機する仕事も大変だと想像する。

場が盛り上がっている時、奥のテーブル席にいた若い人物がグラスと瓶ビールを手にやって来た。「いやあ、ゴルフというものは面白いものですねえ。もっと早くやるべきだったと後悔しています」と割り込むように話し始めたが、それは異常なゴルフ人気を顕著に物語る内容でもあった。

彼は岩木と言う名で、1年ほど前からドラちゃんの店の客となったのだが、半年前からドラちゃんの店のコンペに参加するようになり、誰もが驚くパワーヒッターでいつもドラコン賞候補に挙がっていたが、方向性が今一つで症の獲得を逃がしていることでも知られていた。

「先週の日曜日にゴルフショップが主催する5組のコンペに参加したのですけど、朝のスタート時間が40分遅れで、毎ホール前の組を待つラウンドで3時間を要し、ハーフを終わってレストランに行ったら、満席で2時間も待たされて最悪だったし、後半のスタートも遅れに遅れて結局3ホールを残して日没になって前半のハーフの成績で入賞を決めることになって初めての疲れを感じたよ」

18ホールのゴルフ場が一般的だが、日に60組以上を受け入れるコースもあり、必然として昼食時の待ち合わせ時間が長くなり、食事を終えた人達も席を立たない環境になって悪循環となる訳だが、日曜日や祝日はそんなケースがあちこちで起きていた。

「ゴルフ場の食事で待たされるなんて最悪だなあ。酷いコースだなあ」

それは吉村の言葉だったが、ドラちゃんが場を和ませるように、吉村を肴にする話題を出した。

「吉村さんのクラブでは信じられないでしょうが、我々庶民が行くゴルフ場にはそんなところも少なくないのですから」

それを聞いた吉村は自分に向けられた矛先を転じるみたいにゴルフ場の昼食について話題を振った。  続く
久世栄三郎の独り言(携帯版)
携帯で下のQRコードをスキャンするか
 または
携帯に下のURLを直接入力します。
URL http://m.hitorigoto.net