2018-11-11

NO 8376 短編小説 あの頃 ⑳

ダブルボギーを叩いたホール「メンバーさんが連れて来られた3人が親子の方で、お父さんが『池のアヒルに当てたら気の毒だ』と仰ったので『ここのアヒルは賢くて下手な人の時は退避しますから』と言ってしまったのですが、4番目のお父さんの番になった時にアヒルが一羽もいなくなってしまってお父さんが『アヒルも私が下手なことを知っている』と言われたので思わず笑ってしまって謝罪しました」

おもしろい話である。これこそ会報誌の逸話のコーナーに載せたくなる話題で、水野はポケットのメモ帳に記入していた。

キャディーさん達と会話を交わしていると勉強になる。メンバーやビジターも様々だが、横柄な態度と言葉遣いの悪い人は損をするようで、ある言葉の荒いメンバーが同伴したビジターに、グリーン上で芽の流れを聞かれた際、「お客様の実力なら、思われた方に曲がりますよ」とアドバイスをしたと聞いたこともあるが、メンバーの中に粋なことをされてキャディーさん仲間で話題になったことも聞いた。

その日は二人のキャディーさんが担当していたそうだが、朝のスタート時に練習グリーンで使われていたパターをティーラウンドに置き忘れてしまい、1番ホールのグリーンで気付いて先輩キャディーさんから叱責されて走って取りに戻ったという出来事だが、ハーフを終えて昼食タイムとなり後半のハーフをスタートする際に「朝はごめんね。迷惑を掛けました」とポチ袋を渡され、固辞したらポケットに入れられたそうだが、担当を終えてキャディーマスター室でサインをして控室に行って思い出して取り出したら、表面の熨斗の上部にびっくりするような小文字で「きもち」とひらかなで書かれ、下側に名前が書かれていたという洒落た行為だが、そのメンバーはシングルハンデでメンバーの誰もが知る人物だった。

入っていた金額は1000円札一枚だったが、それも新札で誰もが「こんなの用意されているのだろうか?」と広がりに拍車を掛けたそうだ。

優勝すれば何よりクラブの名誉となる「クラブ選手権」の予選が行われている。27ホールをラウンドするスクラッチ競技だが、全国で一斉に同日開催されることになっており、地域によっては生憎の悪天候でも決行されることも多い。

予選1位と16位、2位と15位というように8組のトーナメントのマッチプレーとなるが、本選となるマッチプレーはゴルフの醍醐味と言われ、体験しなければ面白さが理解出来ないそうで、予選出場でも厳しいクラブではシングルハンデのみとなっていることもあり、出場すること、また予選を通過して本選に進出するだけでも大変なことで、ドラちゃんの店の常連客の中にも吉村のように「クラブ選手権」に出場している人もいる筈だった。

ストロークプレーと若干ルールが異なるので勉強をしなければならないが、吉村は「クラブ選手権」の優勝体験があり、クラブハウスの中の壁に彼の名前の金看板が掲示されている。

その吉村から聞いた体験談だが、本選のマッチプレーは「あつかましい性格」の方が有利だそうで、本線当日の朝の9ホール問題なく集中出来るが、10番ホールへ移動した時から一般来場者を追い抜いて行くことになり、セカンド地点であろうがグリーン上であろうが選手権出場者が優先され、前の組はキャディーさんの指示で譲ってくれる環境となり、それが「ごめんなさい」や「申し訳ない」と感じてしまうと実力が発揮で出来なくなることに繋がり、時には「冷やかし」や追い越されることへの「嫌味の言葉」を掛けられることもあり、それらを一切無視してラウンドする精神力も大きいと話していた。

一般的なゴルフ場の競技会では、「クラブ選手権」「理事長杯」「スクラッチ競技会」が三大大会になっており、金看板に自分の名前を掲げたいと挑戦するのだが、それは本当に限られた一部の人達の世界となる。

ゴルフ場の中の金看板に名前を掲げられるのは。上記の三大競技の他にホールおインワンがあるが、プライベートではなく月例などを含める公式競技に限られているので簡単ではない。

入会しているゴルフ場でプロのトーナメントが開催されることになると、メンバー達に広告協賛やボランティア協力が呼び掛けられることもある。トーナメントの案内パンフのページ広告や選手がインタビュー-受けるコーナーのバックパネルに広告主が掲示されるものだが、高額な費用で無料入場券を数名分貰うだけなので協力者は少なく、ギャラリーを誘導するボランティアの募集も簡単ではない現実がある。

吉村クラスの実力があると、ボール、クラブ、シューズ、帽子などのメーカー提供の申し出があるそうで、そんな事実を知ったら羨ましいが、それは技術だけではなく人格も重視されることになるようだ。

ドラちゃんの店が開催するコンペで一泊二日の2プレイで出掛けたことがあったが、出席した常連客の中にビデオカメラを持っていた人物がおり、スタート時に全員のティーショットを撮影して帰路の車内で放映したら、全員が「俺と違う」「俺はこんな不細工なフォームではない」と言い出したそうで、誰もがテレビの中継で見るプロのスイングを勝手に想像していたことが判明した。 続く
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