2018-11-09

NO 8373 短編小説 あの頃 ⑱

苦労したホールゴルフの話題から離れてドラちゃんが常連客に面白い人物がいると語り始めた、それは航空会社のマイレージを貯めるのが趣味と言う人物で、マイレージの取得のためにわざわざ外国に出掛けるのだからびっくりだが、その行動を『修行』と呼ぶそうで、今春にオーストラリアを往復した際に朝に到着して夜の便に搭乗する際の出国検査で別室に連れていかれ、『同日に入出国するのは何をしていたのか?』と不審に思われたそうで、「マイレージのための修行だ」と言っても信じて貰えなかって困惑したそうだ。

マイレージの言葉が出て来たことから金村が「ゴルフ場でもマイレージを導入するのも面白いかも」と提案したが、酔っぱらっている会計士が「それは競争原理が働かん。来場数が多かったら割引特典を設けたら済む話です」と却下したが、それを聞いていた吉村が金村の立場を慮るように言葉を挟んだ。

「我々の仲間でも『修行』というのがありましてね、それはプロのトーナメントが済んだ後にその会場となったゴルフ場に挑戦に行くのです。狭いフェアウェイ、深いラフ、速いグリーンは体験しなければ理解出来ない世界です。私も初めて挑戦した時は散々な目に遭ってショックを受けましたから」

続いて吉村が挑戦したコースのことを教えてくれた。ダンロップ・オープンが行われる宮崎県のフェニックスだが、前半のハーフでは美しくて狭いフェアウェイに一回も行かず、深いラフと砂地と松林の中に入って大変だったそうで、後半はクラブを短く持ってフェアウェイキープを狙って行ったら30台でラウンド出来たという体験だった。

プロのトーナメント会場となるゴルフ場は簡単ではないそうで、フェアウェイの設定やラフの管理、またグリーンの環境などにグリーンキーパーの職務が重要で、コースが難しくなるところからメンバー達からブーイングが生じるそうだが、トーナメントの開催会場と言う冠が誇りとなることとテレビ中継から来場者が増えることもあってゴルフ場側には喜ばしい限りだが、練習場のリニューアルなども必要なケースもあるので簡単ではないと言われていた。

その後にゴルフ業界は厳しい冬の季節のような時期に突入するが、水野のゴルフ場は毎日いっぱいの来場者があり、日曜日や祝日には予約のキャンセル待ちまで出る状況に嬉しい悲鳴となり、テレビ、新聞、週刊誌の取材も多くてそれこそ好循環となっており、水野は時の人みたいな存在にまでなっていた。

水野は落ち着いてから自身のゴルフ技術アップに取り組み、あちこちのゴルフ場へ行ってラウンドを熟し、半年も経たない内にハーフ39を記録し、ドラちゃんの店の常連客でも話題になっていた。

出掛けたゴルフ場に面白い所があった。池に囲まれたパー3のホールでワンオンすると噴水が上がる仕掛けで、誰も乗らなかったのでキャディーさんに仕掛けを聞いたら、ティー
グランド横のボタンをキャディーさんが押すシステムになっていた。

ある日の新聞の記事に目が留まった。見出しに」「ゴルフ場で計画的窃盗」とあったからで、その実態を知って驚愕。その日の内にスタッフを集めて会議を行った。

被害が発生していたのはロッカールームだった。4人で来場してそれぞれのロッカーのキーを別の仲間に渡し、合鍵を作って数十揃ったところで一気に犯行に及ぶというもので、スムーズにロッカーを開ける姿に防犯ビデオを見ても不審に思わなかったとも書かれていた。

また別のゴルフ場では貴重品金庫で盗難事件起きていた。ゴルフ場のスタッフが加担して利用者の暗証番号を盗むと言う手口で、多額の被害が出ていた。

ゴルフ場には犯罪対象になる危険性がある。駐車場の車上荒らしも考えられるし、倶楽部ハウスの館内にゴルファー装束姿なら疑わないと言う盲点もある。防犯対策にも取り組もうと言うことになって警察関係者を招いて研修階も行ったが、そんな開催の事実をポスターで館内掲示することも抑止となるそうで早速実行した。

ドラちゃんの店で吉村から聞いた話だが、九州のゴルフ場に行った際に9ホールをビデオ収録してくれるサービスがあるそうで、チェックインの時に申し込んだら女性のカメラマンが帯同撮影をしてくれ、一人6000円だったそうだが、チェックアウト時までに編集ダビングしてくれるというもので、スタート時にはインタビュー形式で「どの程度のスコアを目指しておられますか?」と聞かれる体験談を教えてくれた。

阿蘇高原ホテル、霧島ゴルフ倶楽部で体験したそうだが、帰路の飛行機の中で同行者と笑いの揉め事になった裏話も知った。

「36でラウンドすれば36ショットしか映っていないし、50でラウンドすれば50回も映ることになる。それが不公平と言うことになって帰京してからの二次会負担費を調整しようとなった訳だけど、あれは人生の記念としては貴重な存在になっているよ」

ゴルフに関する世界はまだまだ未知数のような感じがする。水野が発想したように、初心者の考えが形として開花することもある。「勝手な思い込み」に捉われていないか見詰め直すことも重要で、来場者に歓迎されることを考えたい。 続く
久世栄三郎の独り言(携帯版)
携帯で下のQRコードをスキャンするか
 または
携帯に下のURLを直接入力します。
URL http://m.hitorigoto.net