会計士が彼の体験話から浮かんだアイデアを出してくれた。それはゴルフ場も多様化を考える時代の到来で、ゴルファー保険の代理店も発想するべきというもので、大手保険会社とタイアップすれば保険料のダウンも可能性があるし、来場者のハプニング事故に対応する姿勢も重要と提案してくれたが、その保険に対して吉村が面白い話を教えてくれた

「同じハンデゼロの仲間がこれまでに７回もホールインワンを記録していてね、７回目の時の祝賀パーティーで保険会社の人物がスピーチをしたのだけど、『我々保険台車はホールインワンの報告があると事故発生となり、この人は７回も保険を支払っているのですから最悪のお客様です』と言われた拍手喝采を浴びたよ」

それを聞いた会計士が信じられない体験談を話し出した。

「私の所属するゴルフ場で実際に起きた出来事なんだけど、４０代の女性メンバーが４番ホールでホールインワンを記録し、１週間後に行われたレディース杯で同じホールでまたホールインワン。それもホール直撃だったそうだよ。それから２週間も経たない内に別のパー３でホールインワンを記録したのだが、同伴競技者に『気持ち悪いから神社でお祓いを受けて来たの』と言って打ったら入ったのだから驚いたが、本当の驚きはその後のことで、その人物の姿が見えないなと思っていたら、彼女が脳梗塞でゴルフが出来なくなったと知ってメンバー達で語り継がれているよ」

ホールインワンが話題になったところでドラちゃんも先月に体験した出来事を持ち出した。

「ハーフを終えてレストランの階段を上がっていたら公衆電話で『大変だ！ホールインワンをやってしまった。保険が切れていなかったか確認してくれ』と真っ青になった人物を目撃してね、思わず他人ごとではないと思って帰宅してから保険を確認したよ」。

ゴルファーの保険はホールインワンを想定するよりも、他人に怪我を負わせる危険性に備えて加入するものだが、実際に打球による不祥事故やクラブに当たって怪我をしたケースも起きているのでゴルファーなら入会を義務付けてもよいという指摘もある。

因みに同伴者がグルになった詐欺事件も起きているところから、保険会社のホールインワン対応には条件が設定されていることもある。それはホールインワンの目撃者の存在で、キャディーさんの帯同目撃がなければ支払いが受けられないケースもあるので要注意だが、続いて金村が体験した面白い出来事を紹介してくれた

「ゴルフ場の休日に合わせて貸し切った大規模なコンペで面白いことが起きたのです。パー３で同伴競技者の第一球にＯＢの可能性があるので暫定球を打ち直したのですが、それが見事にホールインワンとなり、偶々ボールを探しに来ていた先行組のキャディーさんが目撃したので広まってしまい大変な騒ぎになったのですが、第一球はややこしいセーフゾーンに残っており、結果としてボギーとなって嘆いていました」


その組がハーフを終えてレストランに入ったら、「おめでとう」と言う握手を求める祝福の声もあって戸惑ったが、事情を説明したら大笑いになったそうであった。

まだ３回だけのラウンド体験しかない初心者だが、この４人との交流は神仏が与えてくださったように思えてならない水野は、このゴルフ場へ出向したことも「転職」ならぬ「天職」のような気がしていた。

その夜、お礼もあったのでドラちゃんの店に立ち寄ったら、「この店で二次会だよ」とご機嫌になった会計士をはじめ、吉村も金村もカウンター席に座っていた。

ゴルフ場のＨＰは昨日から公開されており、すでに３００名を超える人達が登録されており、口コミで全国的に話題になっているそうだが、金村が「吉村さんなんて、もう二つのバーディーを記録して来たのですから流石ですね」と驚き、横から会計士が「吉村君がハワイ行き第一号だよ。温泉ぐらい行きたいよ！」とやけ酒みたいになっていた。

弁理士のアドバイスから案内パンフやＨＰにも「著作権の有します」と明記してあるので無断で真似をするゴルフ場はないと思うが、ゴルファーが自分の入会しているゴルフ場に要望することも考えられ、この企画についてロイヤリティーシステムの構築も必要かもしれないと考えていた。

水野はこのアイデアが浮かび上がったきっかけを考えてみた。それはパブリックのゴルフ場でマグレのバーディーを体験したことで、全ホールでバーディーなら「５４打か！」と
大浴場の中で振り返った時のことだった。

あの偶発的なバーディーがなかったらこのアイデアが誕生していなかったかもしれない。パー３のホールでＯＢゾーンにある大きな木に当たってピン側に寄った不思議なことが繋がった訳だが、それが何かの「思し召し」みたいに思えてならない水野だった。　続く