2018-10-25

NO 8350 短編小説 あの頃 ③

印象に残っているホールそんな時、2人の会話を耳にしていたドラちゃんが言葉を挟んだ。

「1回でさあ、2万円助かったとしても500回行って1000万円だろう。500回も行くなんて簡単ではないしねえ」

確かにそうである。毎日ゴルフ場へ足を運んでも無理な話である。元を取るまでにどれだけ要するかを伝えたいドラちゃんの意見だったが、それは仲間の吉村が入会しているゴルフ場の会員権相場に対する皮肉でもあった。

ドラちゃんは、続いて常連客仲間が入会しようとしているややこしいゴルフ場のことを話し始めた。

「入会募集金額500万円で1年後にオープン予定のコースなんだけど、3ヵ月ほど前から11人も入会してね、その内4人が分割契約しているのよ。僕も勧められたのだけどどうも胡散臭くてね」

ドラちゃんの話によると、そのコースは1年前から縁故会員募集を始め、一次会員、2次会員、3次会員と進み、オープン時にはオープン会員募集で1500万円を謳っているが、入会した常連客仲間達は第2次扱いだそうで、一人の人物が知り合いの弁護士にゴルフ場について調べて貰ったら、過去に3000人のメンバーを募集していて倒産してオープンしなかった黒い歴史があることが判明、その時の半数のメンバー達が訴訟になっているが、別の会社に譲渡されて新しく会員募集をしている事実があった。

「虫の知らせってあるみたいだよ。この募集の話があった時、パンフレットを目にして疑問を抱いたことが的中してしまったみたいでね、11人の皆さんは怒り心頭になっているのだから勧めた方、勧められた方の両者が被害者なので複雑だけど、我が店としては仲違いになって売り上げダウンが困るのよ」

それを聞いた水野は自身が客観的に物事を考える性格があるところから、ドラちゃんが感じたパンフレットの疑問について質問をした。

「パンフレットね。表紙にあった社名の上に紙が貼ってあってね、捲って見たら前の募集会社名があったからだけど、そんな物、誰が信用する?」

ドラちゃんは自分が被害者にならなかったことを自慢するかのように得意げに話したが、水野にはそんなパンフレットで入会した人達の行動に疑問を抱いた。

「何か大規模なリゾート地として開発されるそうで、その一角にゴルフ場が計画されているものだけど、パンフレットの疑問をセールスにぶつけたら、『不要経費や無駄を省いて利用する物は利用するという姿勢です』という言葉に常連客の一人が妙に納得してしまってね」

ドラちゃんの話は続いてその納得をした人物について解説を始めた。

「当店のお客さん達の中で『お奉行』と呼ばれている人でね、何事に対しても慎重な人で『あの人が』ということから広がってしまった訳」

まだオープンしないとは限らないが、11人の内の一人が現地まで車で行って確かめた様子によると、確かにゴルフ場の工事現場の看板があり、数台の重機が動いていたので大丈夫だろうということになっていると教えてくれた。

水野はゴルフの練習場に数回行っただけであり、止まっているボールがどうして当たらないのだと腹立たしい思いを抱いているレベルだし、何よりややこしいグリップを誰が考えたのかと強い抵抗感を覚えており、そのことを伝えると金村が笑いながら答えてくれた。

「それね、僕もゴルフを始めた頃に感じたよ。同じだよ。誰もがそう思う。小さい時に野球のグリップを体験しているからそう思うのも無理はないけど、しばらくゴルフの練習に取り組むとその合理的なグリップが理解出来るからそれまで頑張らなきゃ」

「我が店も2ヵ月に1回コンペをやっているのだけど、僕がハンデ頭でね。主催者が優勝するとブーイングが出るので困るのよ」

それは自慢話のように感じられたが、金村がドラちゃんの凄さについて話題を進めた。

「ゴルフにはダンプカー一杯のボールを練習しろという格言があるのだけど、ドラちゃんは軽トラック一杯も打たない内にびっくりするほどうまくなったのだから参りました」

世界的に知られるプロゴルファーである「ジャック・ニクラウス」が「世界でゴルフをする人は多いが、絶対に100を叩かないと言う人は15%だ」と分析しているが、ドラちゃんは初めてから半年も経たない内にそのレベルになり、1年も経たない内にハーフで39を記録したというのだからびっくりである。   続く
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