2003-07-18

習 俗    NO 489

非日常的な出来事として忌み嫌われてきた葬儀に関する習俗は、それこそタウンページ1冊でも表記出来ないぐらいあるだろう。

 墓や火葬場の帰りは「往路と異なる道を帰れ」というのが根強く残っているし、仏教を開かれたお釈迦様の「涅槃」に因んだ「頭北面西」は、誰もが知る日本の慣習として受け継がれている。

 お釈迦様が涅槃された時、故郷の方向へ頭が向かわれておられたという説もあるが、開祖に因むことは悪いことでないと思う。

 浄土系では西方浄土思想があり、南無阿弥陀仏のご本尊を掛けた方を西と考えると、頭が祭壇に向かって右側に来ることになり、北枕の問題で物議を醸したこともあったが、この考えを「以信転方」、つまり、信じるを以って方角を転ずるということである。

 ご出棺の際、入り口を出る時、「頭が先か、足が先か?」という問題も大変だ。全国的な地域の慣習により異なることがあり、その地の風習に逆らうと大変な事件に発展する危険性を秘め、各地から参列される親戚達が風習の違いで揉め事になることも少なくない。

 これには、面白い背景があるので紹介しよう。出棺時に茶碗を割る慣習が浄土真宗を除いて行われているが、この割る音を死者の耳に聞かせる目的があるという思想があり、それからすると足から先に出るということになる。

 だが、歴史を遡ると現在のような「寝棺」は特別な立場にある人に限られ、庶民は長い間「座棺」であり、1人で背負う場合は力学的なことから背中合わせとなり、頭から出棺ということになっていたと考えられる。

 さて、自宅を霊柩車で出発をする。西方浄土思想なら西に向けて走り出すのが理想だろうが、都会では一方通行もあり、なかなか難しい問題。

 地方では、どんなことがあっても西か北へ出棺するところもあり、途中で一回バックをするというしきたりのあるところも存在している。

 ある葬儀で遺族側から興味深いご要望があった。喪主さん家族が「易学」に傾倒されており、北西に向けて出棺して欲しいとおっしゃり、その理由を伺うと次のように言われた。

 「慶事は辰巳(東南)の方角。葬儀は弔事、だから凶事として北西なのです」

 そうしなければ、きっとご納得をされないのでそうしたが、大切な家族を「凶事」として送り出されることには抵抗感を感じたし、<良い世界と考えられる東南の方がいいのでは>と思いながらも協力した。

 結びになるが、ある大手の病院。ご遺体を病院から出させる時、「足から」と頑なに守られているところがある。その根拠に深い興味を抱いている。
久世栄三郎の独り言(携帯版)
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