2012-06-27

怖~い小説  NO 2969


 ある異業種の会社からスタッフ教育について講演を依頼されたことがあった。その際に
社員の皆さんに強く訴えたのは交通事故の被害者と加害者の問題で、謝罪してもどうにも
解決が無理で、反省では済まない後悔することなく人生を送れと言うことだった。

 昨日も我が大阪で暴走運転の車があり、死亡される被害者が出なくて幸いだったが、加害者から薬物反応が検知されたというのだから恐ろしい。

 これは事故ではなく事件である。今でも飲酒運転をする人達が存在するし、過日に交通課に勤務する警察官が飲酒運転で検挙されていたニュースにも驚いたが、飲酒や覚醒剤による運転は「凶器」が走る「狂気」の沙汰であると認識したい。

  これまでに何度も書いたが、我々葬儀の仕事に従事していると、悲惨な事故や事件の被害者の葬儀は堪らなくなってしまう。なぜこんなことがと運命の悪戯に神 仏の存在はないのかと問いたくなるが、その瞬間に止まってしまった「遺族」と呼ばれる被害者側の「家族」の時間を動かすことを誰にも出来ないことに気付き たいものである。

 冒頭の企業での話しに戻すが、受講されていた社員の皆さんに「ミスの発生は如何ですか」と問い掛け、答えてくれた数名の方々の発言を集約すると、幸いにして大きなミスは発生しておらず、小さなミスの範囲内で済んでいますと言うことだった。

「皆さん、小さなミスというのはサービスを提供する側の身勝手な考え方。提供される側にとっては大きなミスとして捉えられているとは考えられませんか?」

 そんな問い掛けに彼らの表情に緊張の強張りを感じたが、続いてマンネリの中で発生するミスの危険性について話し、謝罪というもののストレスの強さと大変さを考えないさいとアドバイスした。

 ここで「小説」として考えられる恐ろしさについてしたためよう。

 ある地方の大手冠婚葬祭互助会の葬儀式場だが、規模が大きくなるとどうしても分業体制が否めず、そこにマンネリの中に秘められているミスの危険性について考えることはなかった。

  会員勧誘、葬儀発生時の打ち合わせ、寝台自動車搬入、湯潅や納棺担当、祭壇設営担当、通夜司会者、葬儀司会者、火葬場随行者、御斎(おとき)担当者、還骨 法要担当者、精算担当者、クレームなどを担当するお客様窓口、香典返しを担当する販売部など、それぞれ異なるスタッフが担当するとなれば何より横の連絡が 重視される筈だが、そんなマンネリの隙間に取り返しのつかない危険性が秘めれていた。

 ご当家からストレッチャーにご遺体を安置、そのまま式場に搬送して来たのはちょうど昼時。運転担当者は式場の裏口に寝台自動車を停めるとそのまま近くの食堂へ昼食に行ってしまった。

 納棺担当者達が柩の中へ納め、それを祭壇に安置するのことになっていたが、その連絡網にミスが起きており、事態は予想もしなかった方向へ動き始めることになった。

 今でこそお柩を祭壇の前に安置するケースが多くなったが、昔は祭壇の奥に安置するの一般的で、ちょうど遺影の裏側になる奥にご安置することになっていた。

  そこに置かれた柩は納棺担当者達が和室に運び、ご遺体を納めてからご安置する流れだが、横の連絡でこの部分が欠如していたのだから大変。祭壇設営をするス タッフ達は納まっていると勝手に考えるし、昼食の終わった寝台自動車の担当者はご遺体が降ろされたと 確認もせずに車庫へ入れてしまったから大変だ。

 やがてお通夜が過ぎ、次の日の葬儀で導師がご退出、いよいよご最後のお別れということでスタッフがお柩を持ち上げたらあまりにも軽いので驚愕。そこで祭壇の裏側で頭が真っ白になったスタッフ達の恐怖の推理の時間となった。

 何とか収拾する必要がある。そこで時間稼ぎにご遺族側に「ご遺体の様子が変化しており、処置をいたしております」と説明。やがて流れを逆算することで寝台自動車の存在に辿り着き、確認したらご遺体がそのまま存在していたという物語である。

 そんなことになったら大変だが、明日はもっと恐ろしい小説を提供しようと考えている。
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